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男性育児休暇の現状|パパ特有の制度紹介と取得率を上げるための対策

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2021年6月3日、衆院本会議で、男性の育休を促す「改正育児・介護休業法」が全会一致で成立し話題を呼びました。

充実した制度だと認識されている日本の育児休業制度ですが、厚生労働省が2020年7月に発表した育児休業取得者の割合は、女性が83.0%に対して男性はわずか7.48%(2019年度実績)でした。この結果は、欧米諸国と比べると低く、2025年までに男性育休取得率を30%まで引き上げたい日本政府にとって大きな課題となっています。

改正法が成立するほど、政府が積極的に育休取得を推進しているにも関わらず、依然として日本の男性育休取得率が低いのはなぜなのでしょうか。

この記事では、育児休業制度の基本的な情報を知りながら、男性の育休取得率を上げるためには何が必要なのか考えていきましょう。

今回の記事はこんな人にオススメです
  • 育児休業制度について知りたい人
  • 育児休業を取りたいと考えている男性
  • 男性の育児休業取得率を上げたいと考えている企業の人事担当者

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育児休業制度の基本知識

育児休業制度とは、女性の職場進出、核家族化の進行などによる家庭機能の変化、少子化に伴う労働力不足の懸念を背景に、1992年4月1日から施行された「育児休業法」に基づき作られた、育児のための休業期間です。

日本の男性育休取得率は2019年度実績で7.48%。諸外国の取得率は、スウェーデンが88.5%(2001年生まれの子どもをもつ父親)、2007年以前は取得率が3.5%だったドイツでも2019年には35.8%と過去最高を記録しています。これらの国と比較すると日本の取得率がかなり低いことが分かります。

これは日本の育休制度が整備されておらず、取得が難しいからなのでしょうか?

この点を明らかにするために、日本の育児休業制度を見ていきましょう。

得られる期間は男女ともに原則1年

育児休業制度は、以下の2つの条件を満たす、1歳に満たない子どもを養育する男女労働者が、会社に申し出ることにより、子どもが1歳になるまでの間に希望する期間で育児のための休業が認められる制度です。

保育園に入所できないなどの一定の要件を満たした場合は、最大で2歳になる日の前日まで延長して休業可能です。

育児休業取得の条件
  • 同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
  • 子が1歳6カ月に達する日までに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと

この2点を満たしていても、対象外とする労使協定がある場合に限り、以下の条件に該当する労働者は育児休業を取得できません。

育児休業を取得できない労働者
  • 雇用された期間が1年未満
  • 1年(1歳6カ月までまたは2歳までの休業の場合は、6カ月)以内に雇用関係が終了する
  • 週の所定労働日数が2日以下
  • 日々雇用される

期間中は育児休業給付金が支給される 収入の約8割を補塡

育休取得を考えている人が懸念することに、収入の減少が挙げられます。確かに育休期間中は、無給である企業がほとんどですが代わりに「育児休業給付金」が支給されます。

育児休業給付金は、雇用保険制度の1つで育児休業期間中に支払われるお金です。

1カ月の支給額は、原則として休業開始時賃金日額×支給日数の67%(育児休業の開始から6カ月経過後は50%)に相当する金額です。

休業開始時賃金日額は、育休開始前の6カ月分の収入(残業代などを含む額面の収入で手取り金額ではない)の合計を180日で割って算出されます。支給される金額の上限は301,902円です。この上限は、毎年見直されているため2022年8月1日以降は、最新の情報を確認するようにしましょう。

ちなみに育児休業期間中は、社会保険(厚生年金保険・健康保険)料の支払いが免除されます。

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パパ休暇で父親は育休が2回取得できる

男性が育休を取得することで、得となる制度が2つあります。その1つが「パパ休暇」です。

パパ休暇では、子どもの誕生後8週間以内に夫が育児休業を取得し同期間中に育児休業を終えることを条件に、夫が育児休業を再取得できます。つまり2回に分けて育児休業を取れるのです。

例えば、産後の妻をサポートする目的で産後8週間以内に育休を取得。その後、妻の職場復帰のタイミングに合わせて2回目の育休を取得するなどが可能です。

パパ・ママ育休プラスで育休期間が1年2ヶ月に

男性の育休取得で得となるもう1つの制度が、「パパ・ママ育休プラス」です。

この制度では、両親共に育児休業を取得する場合には、原則として1歳までに定められる休業可能期間を子どもが1歳2ヶ月に達するまで延長できます。

実は世界一の男性育休制度を誇る日本

上記した通り、日本は男女ともに給付金が支給される育休を長期間に渡り取得することできます。さらに、男性が育休を取得することで休業期間の延長も可能です。そんな日本の男性育休制度は、実は世界一と評価されているのです。

ユニセフが2019年に発表した報告書で、日本は父親に認められている育児休業期間がもっとも長い国だと評されました。半年以上に渡り給与と同水準の給付金が受けられる父親育休制度を設けているのは、世界でも日本のみです。

このような長期に渡る支援制度は、福祉国家と言われるスウェーデン、ノルウェー、アイスランドにも存在しません。

法改正によりさらに充実する育児休業制度

世界的に見ても充実している日本の父親育休制度ですが、2021年6月3日に男性の育休取得を促す「改正育児・介護休業法」が衆院本会議で成立しました。2022年4月から順次適用されていく予定で、政府は準備を進めています。

改正された法律では、子どもが生まれてから8週間以内に最大4週間まで取得できる「出生時育児休業」の新設や、企業に対し従業員の性別を問わず育休制度の周知や取得の意向確認を義務づけることなどが盛り込まれるなど、さらに制度は充実していきます。

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男性の育児休業が必要とされる3つ理由

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ここまで育児休業制度の基本について紹介してきました。世界的に見ても男性の育休制度が整っていますが、そもそもなぜ男性の育児休業が必要なのでしょうか。

以下の3つの理由から考えてみましょう。

  1. 身体的・精神的にダメージが大きい産後の妻をサポートできる
  2. 夫婦関係を良好な状態で維持できる
  3. 父親と赤ちゃんの絆を深められる

身体的・精神的にダメージが大きい産後の妻をサポートできる

出産を終えた女性は、体が妊娠前の状態に戻るまでの期間「産褥(さんじょく)期」に入ります。この期間は、産後6週間から8週間程度です。

出産によって体に残るダメージは非常に大きいため、できるだけ安静にして体を休ませる必要があります。しかし、多くの女性は、体調不良の中であっても授乳や夜泣き対応など慣れない育児をスタートさせねばなりません。

さらに、育児と平行して家事をすべて行うことは難しく、できるだけ育児・家事は周りの手を借りて行う必要があります。

また、この期間の女性はホルモンバランスが崩れやすく、マタニティーブルーに悩まされる方もいます。この身体的・精神的に苦しい時期に1人で育児・家事を担ってしまうことで、「産後うつ」を発症してしまう可能性もあります。

産後の女性の死因のトップは「自殺」とするデータもあることから、産後の妻を心身の両面から支えるためにも男性の育休取得は必要でしょう。

夫婦関係を良好な状態で維持できる

東レ経営研究所の渥美由喜氏が行った女性の愛情の配分がライフステージごとにどのように変わるかという調査で明らかになった、「女性の愛情曲線」から妻の夫に対する愛情の変化が読み取れます。

調査によると、妻の夫に対する愛情は、結婚直後までがピークで、その後、出産し子どもが生まれると、愛情の対象は子どもに移り夫への愛情は急激に下がるようです。

しかし、その後、夫のへの愛情が徐々に回復していくグループと、 低迷していくグループに二極化します。この二極化の要因が子育てです。

子育てが特に大変な乳幼児期に「夫と二人で子育てした」と回答した女性たちの夫への愛情は回復し、「私一人で子育てした」と回答した女性たちの愛情は低迷し続けています。

この調査結果から、長期間に渡り良好な夫婦関係を保つには、夫婦が揃って子育てできる環境を整えることが重要だとわかります。この環境を整える手段の1つとして育休制度が有効なのです。

父親と赤ちゃんの絆を深められる

赤ちゃんは、特定の人との社会的なやりとりを通して愛着を深めていきます。発達心理学では愛着のことを、相手を大事に思う気持ちに支えられた絆だと定義します。

赤ちゃんが抱く愛着は、赤ちゃん自身がコミュニケーションを取れる相手を対象にしています。もちろん赤ちゃんは言葉でのコミュニケーションはできませんが、スキンシップやおむつ交換で声をかけたり、赤ちゃんが発する声に反応したりするなどは、赤ちゃんにとってのコミュニケーションになります。

つまり、赤ちゃんは母親・父親だから愛着を持つわけではありません。そのため、父親が育休を取得して赤ちゃんと一緒に過ごす時間を取ることで、赤ちゃんとの絆は深められます。

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男性が育休を取りにくい理由

男性の育休取得は、その必要性の高さから各国で積極的に政策が進められています。日本では整備が整えられているにも関わらず、なぜ育休の取得率が低い(2019年度7.48%)のでしょうか。

希望者が少ないのか、職場の雰囲気が取得しにくくさせているのか、などその理由を考えてみましょう。

男性社員の約8割が育休を取得したいと回答

制度が整えられているのに、育休取得率が低いと聞くと、育休を取得したいと考えている男性が少ないのではないかと推測できますが、実はそうではありません。

ゼネラルリサーチ株式会社が2019年3月に発表した「男性の育児休暇に対する意識調査」内の、男性の育休の取得についてどう思うかの回答によると「許されるなら取得したい」が57.4%「今後積極的に推進したい」が28.5%で約8割の男性が育児休暇を取得したいと考えていることが分かります。

制度も整い意欲もある。それでも育休は取りづらい

男性社員の多くが育休取得への意欲もあることが分かりましたが、なぜ育休は取られないのでしょうか。それは、職場の環境が大きく影響していました。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が発表した「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」によると、男性社員が育休制度を利用しなかった理由について、会社に男性の育休制度があった場合となかった場合それぞれの結果を見ていきましょう。

制度があり利用しなかったが、利用したかった層の回答では、「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」が38.5%でもっとも高く、 次いで「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」が33.7%という結果に。

制度がなく、取得したかった層の回答では、「会社で育児休業制度が整備されていなかった」が 55.0%、「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」が34.2%となりました。

取得したかったのに出来なかった人の多くが、「人出不足」「職場の雰囲気」を理由にあげており、職場の環境によって取得しやすさが左右されると推測できます。

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男性が育休を取得する企業としてのメリット

男性育休メリット・デメリット

管理職や経営者によっては、男性が育休を取ることに対して「人手が不足する」「男性は育休を取る必要がない」などの考えを持つケースもあり、職場の環境が男性の育休取得率を下げている一つの要因であることが分かりました。

では、企業にとって男性社員が育休を取得するメリットとはなんなのでしょうか。

両立支援等助成金を受けることができる

中小企業など社員が少ない企業では、1人が育児休業を取ると人手不足による弊害に懸念を持つこともあるでしょう。しかし、社員が育児休業を取得すると、政府から「両立支援等助成金」を受けることができます。

両立支援等助成金は、男性従業員に育児休業・育児目的休暇を取得させた企業に支給される助成金です。育児休業に係る支給は1年度10人まで支給され、育児目的休暇に係る支給は1回限りと定められています。

気になる支給額は、14日以上(中小企業は5日以上)の育児休業を取得した男性1人目に対して、中小企業は57万円、中小企業以外には28万5,000円が支給されます。

2人目以降は育休取得期間によって金額が異なりますが、10人目までに最大で33万2,500円が企業規模に関わらず支給されると定められています。

この他にも、対象の男性従業員に対して、育児休業の取得を個別に後押しする取り組みを行った事業主に対しては、個別支援加算が支給されます。このように育休期間中に支払われる助成金を使い、他の人を雇ったり、業務効率化が図れる最新機材を導入したりすることで人出が足りなくなることをカバーすることは可能です。

社員の会社への信頼が高まる

男性の約8割が育児休業を取得したいと考えている時代に、他の企業に先んじて育児休業を取りやすい環境を整えることで、社員が安心して働くことができ、休業明けもモチベーション高く働いてくれる可能性が高くなります。

採用で育休取得率をアピールができる

公益財団法人日本生産性本部が2017年度の入社半年後の新入社員を対象としたアンケートによると、「子どもが生まれたときには育児休暇を取得したい」との問いに対し、男性の79.5%が「そう思う」と回答し、質問を開始した2011年以降で過去最高の数値となりました。

男性社員の育休取得率が低い企業も多いなか、積極的に育休取得推進に取り組んでいる企業は、求職者から社員のことをよく考えている優良企業として見られます。若い年代を中心に育休を取得したい男性が増えている状況から見ても、男性の育休取得率が高いことはアピールポイントとなるでしょう。

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男性の育休取得率を上げるために企業ができる2つの対策

企業にとってもさまざまなメリットがある男性の育児休業の取得ですが、男性社員が育児休業を取りやすくするためには、企業はどのような対策を取るべきなのでしょうか。

育休制度を整備して周知する

育児休業は労働者の権利であるため、事業者が育児休業を整備していなかったとしても、労働者が育児休業取得の意志を伝えた場合、企業はそれを断ることができません。

とはいえ、整備されていない休業を取得することは、社員にとっても心理的ハードルが高いでしょう。そのため、社内の育児休業制度をしっかりと整備し、それを社員に周知することが必要となります。

また、社員に周知する際に、男性も取得できること、企業として育児休業取得を推奨していることを伝えることで、男性社員が「自分も取っていい」と安心して育児休業の申請を行えるようになるでしょう。

復職後のサポートを整える

育児休業を取得するにあたって、復職後の働き方や、期間中の業務の引き継ぎなどに不安を感じる社員も多いです。

育児休業の取得が決まった際には、誰にどの業務を引き継ぐのか、復職後はどのように対応する予定なのかなど、取得者と上司で話し合う場を設け、安心して育休を取れるサポートを行いましょう。

また、この機会に属人的な業務を減らし、業務を見える化させるなどの工夫を行うことでいつ社員が休んでも業務が回る体制を作っておくことも大切です。

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まとめ

男性の育休休業取得は、改正法が成立してニュースになったことで、取得したいと希望する人が増えていくと予測できます。

これを機に、事業者も積極的に男性の育児休業取得を推奨し、企業にとっても、働いている従業員にとってもいい解決策を見いだすことが必要ですね。

男女に限らず「育休取ります」と当たり前に言える社会になるために、社会全体で考えていきたい課題です。

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