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企業が考慮すべき人権課題|差別・ハラスメントからAI・気候変動まで

企業が考慮すべき人権課題|差別・ハラスメントからAI・気候変動までの画像

この記事は、専門家による寄稿記事です。

  • 森本 美紀子

    株式会社karna

    こんにちは。株式会社karna代表の森本です。これまで前職時代を含めて企業や組織のSDGs・サステナビリティ推進やESG対応、情報開示等のコンサルティング、そして人権方針の策定や人権デューディリジェンスの実施にも携わってきました。これらの経験を元に企業と人権の関係についてご紹介します。

前回の記事「企業の人権尊重の重要性|人権侵害への対応事例と定量的な評価から学ぶ」では、グローバル企業による人権侵害の事例や、企業の人権対応を数値で評価する取り組みを紹介し、企業活動に伴って常に生じる可能性のある人権リスクにしっかりと向き合う姿勢が重要であることをお伝えしました。

今回は、企業が人権の取り組みを進める上で、具体的にどのような人権リスクを考慮すべきかという点に関して、自社内やサプライチェーン上で起こりうるさまざまな人権課題のうち、特に留意したい課題について解説します。

今回の記事はこんな人にオススメです
  • 自社で人権尊重の取り組みを始めるにあたり、どのような人権課題を考慮すべきか理解しておきたい
  • 社内で人権研修を行う際にどんなテーマを取り上げるか検討している
  • 日常的にどのような人権課題に気をつける必要があるか知りたい

企業が尊重すべき人権にはどのようなものがあるか

これまで多くの企業が人権課題として扱ってきたのは、職場での差別やパワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、同和問題など、おもに自社内で起こりうる問題でした。

しかし、「ビジネスと人権」という考えのもとでは、伝統的に人権問題として捉えてきた範囲だけではなく、サプライチェーンの上流(原材料などのサプライヤーや生産者、下請け業者など)から下流(顧客や最終消費者、地域社会など)まで、自社の事業や提供する製品・サービスが関係するあらゆる場面で起こりうる人権課題を考慮する必要があります。

さらに最近では、環境・気候変動問題の深刻化やテクノロジーの進展、価値観の多様性が広く受容されるようになったことなどに伴って、新たな人権課題も認識されはじめています。

そうした広範な人権課題について見ていきましょう。

自社内で起こりうる主要な人権課題

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「ビジネスと人権」は、サプライチェーン全体にわたって人権を尊重する考え方ですが、もっとも重視しなければならないのは、やはり自社内の人権課題です。

企業は、自社や子会社・グループ会社で働く従業員の人権を尊重する必要があります。その対象となるのは、正社員だけでなく、契約社員、派遣社員、アルバイト、パート、外国人実習生など、雇用形態にかかわらず、すべての従業員です。

自社内で起こりやすい人権課題としては、たとえば以下のようなものが挙げられます。

  • 長時間労働や過剰な時間外労働
  • 適切な休憩を取得できない
  • 賃金の未払い、割増賃金の不払い
  • 生活賃金が保証されない
  • 劣悪・危険な労働環境
  • 従業員の健康・メンタルヘルス対策の不備

そのほか、特に留意する必要のある人権課題について、詳しく紹介します。

ハラスメント(パワハラ、セクハラなど)

パワーハラスメント(パワハラ)は、以下の3つの要件を備えたものと定義されます。

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超える
  3. 労働者の就業環境が害される

セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されたりすることを指します。

厚生労働省が2020年に実施した調査によると、過去3年間に勤務先でパワハラを経験した人の割合は31.4%(男性33.3%、女性29.1%)、セクハラを経験した人の割合は10.2%(男性7.9%、女性12.8%)でした。

パワハラの具体的な内容としては、「精神的な攻撃」が最も多く報告されています。セクハラに関しては、「性的な冗談やからかい」、「不必要な身体への接触」、「食事やデートへの執拗な誘い」などが多くなっています。

近年、セクハラ防止規定を設ける企業も増えていることなどから、企業でのセクハラは減少傾向にある一方、パワハラはむしろ増加しているとの報告もあります。2019年5月に改正労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)が成立し、2022年4月から全企業にパワハラ防止措置が義務づけられたため、今後は減少していくことが期待されます。

職場でのセクハラ、パワハラ以外に、妊娠・出産・育児休業などハラスメント(マタハラ、パタハラ)、介護休業などハラスメント(ケアハラ)、顧客などからの著しい迷惑行為、就活に伴い生じるセクハラなどにも留意する必要があります。

ハラスメントは、その性質上、人権侵害であるとして声を挙げにくく、周囲が気づきにくいケースも少なくないと考えられます。ハラスメントを受けたと感じる人々の声を聞き、迅速に対処するための仕組みづくりが求められます。

職場で起きやすい差別

世界人権宣言と並んで現代人権の基礎となっている国際人権規約には、すべての人が、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的・社会的出身、財産、出生または他の地位などによるいかなる差別も受けないことが明記されています。この差別を受けない権利は、企業でも当然ながら尊重されるものです。

そのほかに、性的指向・性自認、障がい・疾病、雇用形態(正規・非正規など)による差別も起きないような配慮が必要です。

職場での差別は、賃金、配置、昇進・昇格、採用のほか、社内規定・制度や施設・設備、社内コミュニケーションなどの場面でも起こり得ます。性別や国籍によって待遇に差が生じていないか、特定の性的指向をもつ従業員が利用できない制度がないか、バリアフリー対応が整備されているか、といったチェックを行うと良いでしょう。

アンコンシャス・バイアスが引き起こす差別

アンコンシャス・バイアスとは、無意識の偏ったモノの見方のことで、日常のさまざまな場面で見られます。職場で起こりがちなアンコンシャス・バイアスには、以下のような例が挙げられます。

  • お茶出し・受付対応・事務職・保育士というと、女性を思い浮かべる
  • 育児中の社員・職員に負荷の高い業務は無理と思ってしまう
  • 定時で帰る人はやる気がないと思う
  • 非正規雇用で働く人は、自分で望んでその働き方を選択していると思う
  • 年配(高齢者)の人は頭が堅く、多様な働き方への融通が利かないと思ってしまう

アンコンシャス・バイアスは誰にでもあり、日常的に生じるもので、それ自体が悪いものではありません。しかし、気づかないうちに偏った見方で物事を判断したり、他人に押しつけたりすることで、差別が生まれたりハラスメントに発展したりする可能性があります。

大事なのは、職場でどのようなアンコンシャス・バイアスがあるのか認識し、正しく向き合って、偏見や思い込みによる負の影響を解消するような行動や働きかけを行うことです。

多様性と人権

ジェンダーに関する人権課題には、単に生物学的・社会・文化的な性別役割に基づいて差別や不当な扱いが生じることのみならず、LGBTQなどと総称される性的指向や性自認におけるマイノリティが不利益を被ることも含まれます。

性別も性的指向・性自認も、業務遂行上の能力とはまったく関係ありませんが、それらの差違を理由に差別やハラスメントを受け心身に支障をきたしたり、働きにくさを感じて離職したりしてしまうこともあり得ます。

また、性的指向・性自認に関する個人情報を、本人の了解を得ずに第三者に暴露してしまうアウティングも、人権侵害の1つとして注意が必要です。

性別、性的指向・性自認に限らず、年齢・国籍などの属性は、他者から選択・変更を強いられるものではなく、多様性や個人の尊厳に関わるものとして尊重されるべきです。

多様性(ダイバーシティ)や包摂性(インクルージョン)を尊重する取り組みは、これまで「D&I」と呼ばれてきましたが、最近では、すべての人が同じスタートラインに立てるようにするという意味で公平性(エクイティ)の概念を加え、「DE&I」と称されることも増えています。

公平と平等

公平は、平等(イクオリティ)と混同されることもありますが、大きく違うのは、多様性を勘案するかどうかという点です。個人個人の差違は考えず、すべての人に同じものを与えるのが平等で、個人個人の差違を考慮した上で同じ目的を達成するために必要なものを与えるのが公平である、といえます。

下の図は、その違いをイラストで示したものですが、真ん中の「平等(Equality?)」では2人の状況の違いにかかわらず同じ高さのハシゴを置いている一方、右の「公平(Equity)」では状況に合わせて異なる高さのハシゴを置いています。人権尊重を推進する上で、多様性を考慮して組織や労働環境の不平等を改善するために公平の概念が重要であることがわかります。

外国人労働者の権利侵害

政府の統計によると、2021年末の在留外国人276万人のうち、約27.6万人が技能実習生です。人手不足が深刻な介護・建設・食品製造などの現場で多くの外国人技能実習生が受け入れられていますが、その労働環境については十分に把握されていないのが実状です。

外国人労働者が、単に安価な労働力として使われ、理解できる言語で説明を受けられないまま就労し、賃金や労働時間、安全衛生などの面で適正な労働条件を確保されておらず、ときにはパスポートや在留カード、携帯電話などを雇用主に取り上げられ、外部との交流も禁じられるといったケースも少なくありません。

そうした状況は、コロナ禍でさらに悪化した面もあります。技能実習生は本来の在留目的が実習であるため原則として転職を認められていないことや、来日のために多額の借金を負う場合も多いことが、離職や帰国も許さない環境をつくっています。

一方、同一職種であれば転職が可能で、一定程度の日本語能力が求められる「特定技能」の外国人は約5万人在留しています。特定技能に関する人権問題は技能実習生ほど顕在化していませんが、在留期間などの制約が課題として指摘されています。

こうした現状に対し、日弁連やNPOなどが技能実習制度の廃止や改革を訴える動きも出ています。2022年7月に政府も制度の本格的な見直しの検討を表明しており、今後の対応が注目されます。

企業側では、少なくとも法定の労働条件を守り、外国人労働者が苦情や相談を寄せることのできる窓口を整備するなど、早期の改善が求められます。個々の企業だけで対応が難しい場合には、官民セクターが共同で2020年に設立した「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」などの利用も有効です。

グローバル企業が考慮する点

グローバルに事業展開し海外に事業所を持つ企業は、現地の法令はもちろんのこと、文化や慣習、宗教も理解して、外国人従業員のさまざまな権利を尊重することが大切です。

たとえば、礼拝の時間を考慮せずに会議を設定する、宗教上の重要な行事の日に勤務を命じる、といった日常的な事項のほか、海外事業所の外国人従業員が組合をつくることを禁じるといったことも、権利の侵害となります。

また、企業活動によって先住民族・地域住民が負の影響を受けないような配慮も求められます。たとえば、オーストラリアの資源大手リオ・ティント社は、2020年に鉄鉱石鉱山開発を目的として先住民の洞窟遺跡を破壊したことで批判を受け、CEOが引責辞任する事態となりました。

土地・資源の利用によって住民たちの生活や文化、心身の安全が脅かされないようにすること、開発に伴う移住・移転も含めて負の影響が避けられない場合には住民たちと十分に対話・調整を行うことなどが重要です。

サプライチェーン上で起こりうる主要な人権課題

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自社内で起こりやすい人権課題は、当然ながらサプライチェーン上でも起こる可能性があります。上述した課題のほかに、前回の記事で事例として紹介したように、劣悪な労働環境や賃金の未払い、地域の深刻な環境汚染などは跡を絶たず、サプライチェーン上のどこかで同様の問題の関与してしまう可能性は十分にあり得ます。

なかでも特にサプライチェーン上で考慮すべき人権課題として、強制労働児童労働があります。

強制労働

強制労働とは、処罰の脅威(賃金の支払い拒否、オフィスや工場からの自由な異動の禁止、暴力など)のもとに強制され、かつ自ら任意に申し出たものではない一切の労働を指します。

労働者には、自らの仕事を自由に選び、自由意思で働く基本的な権利があり、賃金その他の補償を提供していれば、その労働が強制労働に当たらないというわけではありません。

日本国内では、強制労働はなかなか起こりにくいように思われますが、国際NGOのWalk Freeの調査によると、日本には「現代奴隷」の状態にある人が3.7万人いると推定され(2018年時点)、そのなかには多くの外国人労働者が含まれると考えられます。

また、日本は経済活動を通じて国外での強制労働に関与しており、その規模は世界2位とされます。日本のサプライチェーン上の強制労働のリスクが高い製品には、IT機器・アパレル・魚介類・カカオ・木材が挙げられます。

これらに限らず、製造やサービス提供の委託先、原材料の生産者などサプライチェーンにおいて強制労働に当たる労働が行われていないかを把握することが重要となります。

児童労働

児童労働は、法律で定められた就業最低年齢を下回る年齢の児童によって行われる労働を指します。

児童労働の禁止・撤廃を定めるILO(国際労働機関)の国際基準では、就業最低年齢は原則として15歳、健康・安全・道徳を損なうおそれのある労働については18歳と定められています。

国内では児童労働に関する報告事例は少ないものの、やはりサプライチェーン上で児童労働に関与するケースが懸念されます。ILOとユニセフが2021年に共同で発表した世界の児童労働に関する報告書によると、世界の子どもたちの1割にあたる1.6億人が児童労働をしており、その7割が農業部門で行われているとされます。

日本の産業は、途上国など海外からの農産品に依存している部分も大きいため、サプライチェーンを通じて児童労働に加担してしまう可能性はけっして排除できません。

児童労働は、きわめて脆弱な立場にある子どもたちが健全に成長し教育を受ける権利を侵害するもので、人権リスクのなかでももっとも深刻で重大であると考えられます。

社内外の人権リスクに向き合う際の留意点

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以上、社内およびサプライチェーン上で特に留意が必要な人権リスクを紹介しました。ただ、そのほかにもさまざまな場面で人権への負の影響は生じる可能性があります。

法務省人権擁護局による報告書『今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応』では、企業が配慮すべき人権や、企業活動に関連して生じる人権リスクとして、25種類もの項目を挙げています。

サプライチェーンが多様かつ複雑になっている現状で、いかに多くの人権リスクを考慮しなければならないかがよくわかります。

そのなかでも特に慎重に取り扱う必要があるのは、強制労働・児童労働・パワハラ・セクハラなど、侵害を受けた人々の生命や人生に大きな影響を与えかねない人権リスクです。これらは企業の規模や業態を問わず、もっとも優先すべきだと判断されることが多くなります。

一方、その深刻度や負の影響が生じる可能性は、企業の規模や業態、事業展開する国・地域、扱う商材などによって異なります。

そのため、それぞれの企業が、自社のサプライチェーンとステークホルダーを把握し、顕在化している人権リスクだけでなく潜在的に起こりうる人権リスクも含めて特定し、対処することが重要になります。

多くの人権リスクは複合的に起きる

人権リスクは概して、単体で生じるというよりも、複数の負の影響が同時に起こり、重なり合って複雑化するものです。

たとえば、前回の記事で紹介したラナプラザ崩落事故(2013年)の事例では、賃金の不足・未払い、過剰・不当な労働時間、労働安全衛生の不備、パワハラ、セクハラ、強制労働、結社の自由の侵害、性別による差別、という非常に多くの人権課題が複合的に生じていました。

こうした事例はけっして珍しいものではなく、日本国内でも複数の人権侵害が疑われる事案はいくつも起きています。負の影響が多いほど、深刻度も大きく、また是正も難しくなります。

人権リスクは把握しにくい

誰の目から見ても明らかな人権侵害は把握しやすいのですが、傍目からはわかりにくい人権侵害が起きることは往々にしてあります。特に脆弱な立場にある人々の権利が侵害された場合には、声を上げることができないまま、影響がさらに深刻化することもありえます。

その原因として、人権侵害がなされた場合に相談し救済を求められる仕組み(グリーバンスメカニズム)が十分に備わっていない企業が多いことが挙げられます。

また、もしホットラインや内部通報窓口が置かれていたとしても、存在が認識されていなかったり、受け付ける相談内容が明確に示されていなかったりして、アクセス性が低いケースも少なくありません。

実効性のあるグリーバンスメカニズムを整備していくためにも、人権デュー・ディリジェンスをしっかりと行って、顕在している人権リスクだけでなく潜在的なリスクも把握することが重要です。

新たな人権課題の分野にも関心が高まっている

急速な社会環境の変化や技術の進展に伴って、新たな人権課題への関心も高まっています。なかでも議論されることが多い3つのテーマを紹介します。

テクノロジー・AIに関連する人権問題

インターネットや情報通信技術(ICT)は、人々の生活やビジネス活動を格段に便利にする欠かせないものです。その一方で、インターネット上の名誉毀損やプライバシー侵害、AI(人工知能)利用によって生じる差別など、特有の人権課題を生じさせてきました。

たとえば、GPSデータ利用により個人の位置情報や行動が監視されること、AIを利用した採用システムを導入した結果、性別や人種などにバイアスのかかった判断がなされることなどが挙げられます。

実際に、米アマゾン社は、開発を進めてきたAIを活用した人材採用システムについて、女性を差別するという機械学習面の欠陥があったため、2018年に開発を中止しました。また、2020年には米IBM社が、顔認識技術などのテクノロジーが人種によるプロファイリングや監視などに使用されることに反対して、顔認識AI事業から撤退しました。

こうした課題は日本でも認識されており、政府は2019年に「人間中心のAI社会原則」を策定しています。また、2020年に策定された『「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)』では、「新しい技術の発展に伴う人権」が横断的に取り組む重点課題の1つと位置づけられ、今度行っていく具体的な措置として以下の3つが挙げられました。

  • ヘイトスピーチを含むインターネット上の名誉毀損、プライバシー侵害等への対応
  • AIの利用と人権に関する議論の推進
  • AIの利用とプライバシーの保護に関する議論の推進

マーケティング・広告表現における人権問題

製品のデザインやサービスの設計、広告表現などにおける差別的な表現にも関心が高まっています。たとえば、性別に関するステレオタイプを反映した商品デザインや、テレビCMで家庭における男女の役割を定型化したような表現を用いることが挙げられます。

こうした課題意識は、1970年代半ばにテレビCMで「私作る人、僕食べる人」という台詞が問題視された頃から社会にありましたが、半世紀近く経った現在でも同様のことは繰り返されています。

そして、メディア形態が多様化し、SNSを通じて誰でも公に発言できるようになった現在、情報を受け取る側にはさまざまな価値観や考え方があることに配慮せずに出される広告や企業関係者の発言は、容易に炎上するようになり、レピュテーションリスクも格段に高まっています。

特に留意すべきなのは、前述したアンコンシャス・バイアスに基づいて、人権リスクの認識なく侵害行為がなされてしまうことです。企業には、商品・サービスが市場に出る前に、また広告が公開される前に、社内で人権方針などに照らして慎重に検討し、人権尊重の意識をしっかり確認することが求められます。ガバナンスの質を問われる課題とも言えるでしょう。

環境・気候変動に関連する人権問題

日本国憲法では、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利をもつことが規定されています。しかし、昨今の環境汚染や地球温暖化は、人々の生活、安全、健康や経済活動に甚大な影響を与えており、ときには自然災害や疾病を通じて生命をも脅かします。

環境・気候変動問題が人権に与える影響について、企業活動はけっして無縁ではありません。たとえば、化学物質の流出や工場の事故などにより人命を危険にさらしたり、大気・土壌・水質汚染によって地域の住環境に被害を与えたりすることが挙げられます。

また、再生エネルギー開発のために事業用地の環境が破壊されることや、人権侵害が懸念される地域で生産されたソーラーパネルを使用することによっても、人権への負の影響を与える場合があります。

さらに、環境・気候変動は、世界中のすべての人々に関わる問題である一方で、高齢者・女性・子ども・障がい者・先住民などが特に脆弱な立場にあり、より深刻な影響を受けやすいことにも留意が必要です。

2022年7月、国連総会で、清潔、健康的で持続可能な環境への権利を人権と認める決議が採択されました。環境・気候変動と人権の関係が世界的に認められた画期的な決議といえます。2021年10月に国連人権理事会で同様の決議が行われた際に棄権した日本政府も、国連総会の決議には賛成しました。

地球規模の課題にさまざまなステークホルダーが取り組むなか、人権尊重の観点からも、いっそうの連携による取り組みの拡大が期待されています。

まとめ

ここまで、企業活動に関連して、自社内やサプライチェーン上で起こりうる人権課題のうち、日常的に起こりやすいハラスメントや差別、制度利用の側面からも留意が必要な外国人労働者の人権問題、深刻な被害をもたらす可能性のある強制労働や児童労働などについて解説しました。

また、テクノロジー・AIや広告表現、環境・気候変動問題など最近注目が高まっているテーマも紹介しました。

企業が尊重すべき人権は非常に多岐にわたります。企業活動を支える「人」の権利を尊重するとはどういうことなのか、チェックリスト的に判断するだけでなく、理念や方針に立ち返って、あるべき姿を考えてみることも大切です。

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