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SDGsはビジネス界の共通言語|実践を支える企業ナラティブとは?

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SDGsの普及とともに、市場や取引先からのニーズとして企業にもSDGsへの対応が求められるようになってきました。例えば、投資の条件として、収益だけではなく、SDGsに取り組んでいるかどうかも考慮される時代なのです。 *1

こうした状況から、SDGsはビジネス界での「共通⾔語」になりつつあり、SDGsの目標を達成するために、政府や⾃治体だけでなく、民間企業においても取り組みが始まっています。

そして、企業がSDGsに取り組むとき、ナラティブが大きな力となります。

それはなぜでしょうか。そもそもナラティブとはどのようなものなのでしょうか。

SDGsにつながる企業ナラティブの取り組み事例にふれながら、SDGsとナラティブの関係について考えていきましょう。

※この記事は、寄稿記事です。

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ビジネスにおけるナラティブとは

わかっているようで、いざ言語化するとなると難しい。ナラティブはそんなコンセプトの1つかもしれません。

まずナラティブとはどのようなものかを、事例を通してみていきましょう。そのために筆者が選んだのは、IKEA ISLAELの「ThisAbles」キャンペーンです。

ストーリーからナラティブへ

従来、マーケティングや広告PRの領域でナラティブに一番近い用語は、「ストーリーテリング」「ブランドストーリー」でした。*2

ブランドは自らのストーリーを産み出し、発信し、消費者にアピールしたのです。その試みは成功し、世間はさまざまな「企業ストーリー」で溢れかえりました。そのストーリーにとって代わろうとしているのがナラティブです。

では、同じ「物語」と訳されるストーリーとナラティブの違いはどこにあるのでしょうか。

その決定的な違いは、「演者」「時間」「舞台」の3つである―そう語るのは、日本のPR業界を牽引するPRストラテジスト(PR戦略家)、本田哲也氏です。その違いを含め、ナラティブの特徴をみていきます。

ナラティブの主人公はあなた(生活者)

ストーリーにおける主役は企業やブランドである。一方、ナラティブの主人公はあなた(生活者)だ。あなた(生活者)は物語の外にいるオーディエンス(聴衆)ではなく、登場人物として物語の中にいる。企業やブランドはあくまで「演者の1人」にすぎない―本田氏はそう語ります。*2

IKEA ISLAELYouTube公式チャンネルで公開されている「ThisAbles」の動画を観れば、そのことに頷けます。主役はあくまで登場人物であるユーザーたちだからです。

その動画の内容は、というと・・・。*3

10人の人々が並んで座っています。その中心にいるのは脳性小児麻痺で体が不自由な32歳の青年、ELDAR(図1)。

そこに、ナレーションが流れます。「イスラエルでは、10人に1人が障がい者(“Disabled person”)です」

ここで、「ThisAbles」が“disable”をもじったものだということに気づかされます。「できない」から「できる」への転換です。

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時代精神を変え、社会的な認識を形成する

IKEA ISLAERは特別な支援が必要な人たちに質の高い生活(クオリティ・オブ・ライフ)を提供するために、ThisAblesプロジェクトを立ち上げました。連携しているのは、特別なニーズや障がいをもつ人々のためのソリューションを専門とするNPOのMilbatとAccess Israelです。*4-1

上述の動画では、ELDARが日常生活で困っている場面が映し出されます。ソファから立ち上がれない、戸棚の扉を開けられない、電気スタンドのスイッチが小さすぎる・・・。

ThisAblesプロジェクトの解決方法は、家具そのものを変えることではありません。もともとあった家具に取り付ける、画期的なアタッチメントを開発したのです。*4-2

ソファを高くする「COUCH LIFT」、戸棚の扉を肘で開けられるようにする「EASY HANDLE」、広い面でスイッチを押せるようにする「MEGA SWITCH」、ひきだしを開けやすくするための「POPUP HANDLE」、棚の中に何があるか読み上げてくれる「STUFF READER」など、2022年9月現在で13種類のアタッチメントが開発されています。

このプロジェクトで重要視されているのは、プロジェクトのために新設した特別なウェブサイトから製品にいたるまで、あらゆる面で障がいをもつ人々が自分の力で最大限アクセスできるようにすることでした。*4-1

例えば、アタッチメントに関するデータはウェブ上で一般公開されていて、3Dプリンターがあれば世界中どこでも誰でも自分で作成することが可能です(図2)。*4-2

このような取り組みをみていると、障がいのある人が困難を抱えている状況があるとしたら、そのソリューションを提供できていない社会の方にこそ問題があるのではないかと思えてきます。

ノーベル賞を受賞した経済学者、ロバート・シラー教授は著書『ナラティブ経済学―経済予測の全く新しい考え方』の中で、ナラティブは文化や時代精神、経済行動を急激に変えるベクトルであると述べています。*5

本田氏もナラティブの目的は「何らかの価値観にもとづき、社会的な認識(パーセプション)をつくることだ」と言います。*2

さらに、前デロイト・センター・フォー・ジ・エッジ共同会長のジョン・ヘーゲル3世も、ナラティブの解決は関係する人々の選択と行動で決まるため、強力な行動を喚起する可能性を秘めていると述べています。*6

IKEA ISLAELのThisAblesプロジェクトは、まさにそのような「認識の形成」「認識の転換」を体現するナラティブだといえるでしょう。

社会全体が共有するオープンエンドな物語

上述のジョン・ヘーゲル3世は、ナラティブはオープンエンドだと述べています。*6

ストーリーは一般に、始まりと中間と終わりがあって自己完結するものです。それに対しナラティブは現在進行形で、未来がどうなるのかまったくわからない物語だというのです。

また、ストーリーの舞台が企業の属する業界や競合環境であるのに対して、ナラティブの舞台は「社会全体」だと本田氏は考えています。*2

ストーリーは企業からの一方的な物語であり、企業の声や思いを体言するものですが、ナラティブは社会全体で共有される物語であり、社会の集合的な考えや価値を体言するものだというのです。

これをThisAblesプロジェクトに関連させて考えると、どうなるでしょう。

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SDGsとナラティブの親和性

SDGsの目標を達成するために、なぜナラティブが有益なのでしょうか。上でみた、「社会全体が共有するオープンエンドな物語」をカギにみていきます。

「誰一人取り残さない」SDGsとナラティブ

ThisAblesプロジェクトをめぐる物語は、家具メーカーのIKEAではなく、ユーザーのELDARを、そして彼と同じように障がいをもつユーザーのDINAやPAVEL、INVAL、MOSHE、TAHEL、LIELたちを中心に展開します。(図3)。*3

ThisAblesプロジェクトのナラティブでは、彼らが主役です。また彼らの物語には、彼らだけでなく、彼らの家族や友人、隣人、知人も含めた多くの人々と、それらの人々のこれまでの人生、現在の人生、そしてこれからの人生までもが紡がれています。

また、その物語の舞台は、彼らが暮らす世界、つまり私たちが住むこの世界です。だからこそ、ThisAblesのアタッチメントは、世界中どこでも誰でも作成可能なのです。

このことから、SDGsの「誰一人取り残さない」を想い起こすのは、筆者だけでしょうか。ここで、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の文言を読んでみましょう(「宣言」導入部 4)。*7

(誰一人取り残さない)この偉大な共同の旅に乗り出すにあたり、我々は誰も取り残さ れないことを誓う。人々の尊厳は基本的なものであるとの認識の下に、目標とターゲットがすべての国、すべての人々及び社会のすべての部分で満たされることを望む。そして我々は、最も遅れているところに第一に手を伸ばすべく努力する。
引用元:持続可能な開発のための2030アジェンダ|外務省(PDF)

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このように、「社会全体が共有するオープンエンドな物語」ナラティブはSDGsと親和性が高いのです。

さらに、同アジェンダ「我々のビジョン」には、「これらの目標とターゲットにおいて、我々は最高に野心的かつ変革的なビジョンを設定している」と書かれています。

ジェンダー平等のための「HeForShe」キャンペーンなどを推進するUN Women(国連女性機関)の日本事務所長、石川雅恵氏も、法整備、政策立案、制度・仕組みづくりと、個人個人の意識改革の両輪があってはじめてジェンダー平等は前進すると述べています。*8, *9

SDGsの目標が人々の意識改革抜きには達成できないことも、「時代精神を変える」「社会的な認識形成を目指す」ナラティブの在り方と合致します。

感染力の強い物語

ロバート・シラー教授は、上述の著書の中で、ナラティブは病気の流行のように感染力が強く、世界に共有されていく物語だと述べています。*5

例えば、ドナルド・J・トランプ氏が多くの人々の予測に反してアメリカ大統領に選出されたのも、彼がタフなディールメーカー(M&Aの中心プレーヤー)であり、成功したビジネスパーソンだというナラティブの力によるものだといいます。

このように、世界規模で拡がっていき、人々の認識を変革するナラティブは、SDGsの目標達成に寄与する影響力をもちます。

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SDGsの達成を支え企業価値を高めるナラティブ

現在は、企業規模にかかわらず、企業の経営に対し「企業の社会的責任」が問われ始めています。*10

現在SDGsに取り組む企業が出てきたのは、SDGsに取り組むことが、企業価値を最大化させるという企業の目的・目標と合致するからです。*2

企業が経営戦略にSDGsを組み込むことで、その目標を達成することができれば、それは企業への評価となります。

最近はSDGsを推進する国連機関と企業とのコラボレーションも行われています。*11

UN Womenは上述のように、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに取り組む国連機関で、どのような企業の製品・サービスも推奨しません。しかしその一方、広告業界やサービス業界と連携して、広告やメディアから有害なステレオタイプを根絶することを目指す「Unstereotype Alliance(アンステレオタイプアライアンス)」に取り組んでいます(図5)。

この「Unstereotype Alliance」とパートナーシップを組むAMERICAN ADVERTISING AWARDS(全米広告賞)は、2021年シーズンからの審査基準として「Unstereotyped(固定観念にとらわれない)」という審査基準を導入しました。*12

賞の審査の「観点」は「 誰がナラティブを構成しているのかに焦点を当てること」であり、チェックリストには、「ナラティブを動かしているのは誰か」が挙げられています。

ナラティブはSDGsの達成と強く結びつき、企業の社会的責任を支え、企業価値を高めるのです。IKEAのThisAblesプロジェクトのように。

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