SDGs達成を担う人材を育てる|STEM教育が重要な理由とは
STEMとは、S:Science(科学) T:Technology (技術)E:Engineering (工学)M:Mathematics(数学)の頭文字をとった造語です。
科学技術発展に寄与する人材を育成するSTEM教育は、理工系分野の人材育成にとどまらず、文系・理系を超えた問題解決力や創造性、探究心を育みます。 STEM教育を推進していくことで、急速に発展していく社会に適応し、SDGsの目標達成を担う次世代の人材を育成することにつながります。
この記事では、世界で注目が高まっているSTEM教育の必要性と日本での取り組み事例について解説します。
※この記事は、寄稿記事です。
目次
世界で推進されているSTEM教育
STEM教育とは
STEM教育とは科学・技術・工学・数学といった理工系分野に幼少期・学童期から積極的に触れ、科学技術人材を育成する教育カリキュラムです。STEM教育は、2013年にオバマ大統領が重要な国家戦略として取り入れたことで、世界的にも認知度が上がりました。*1
アメリカでSTEM教育が推進されたのには、将来的なSTEM人材不足と国際競争力低下への懸念などの理由があります。
STEM教育の特徴は、実践型プログラムや科目横断型教育で、論理的思考力や創造力を育むことを目的としています。教員が生徒に対して一方向に講義する従来の授業スタイルとは異なり、プログラミングやロボット、ものづくりなどの主体的かつ体験的な学習を通じて、課題発見・解決のプロセスを学びます。単なる理系教育でなく、科学的な見方・考え方を学ぶことで、根拠をもとに論理的にものごとを考える力、自由に新しい価値を創造する力を育みます。
STEM教育発祥の国アメリカでの取り組み
アメリカでは2015年にSTEM教育法が成立し、STEM教育を促進する次世代科学教育スタンダード(NGSS)が多くの州で採用されています。*2
NASAと共同で宇宙探査機を設計するプロジェクトや3Dプリンターを活用した風力発電用のミニ水車作りなど、企業や研究施設と連携した実践的なプログラムも多数生まれています。*3
アメリカの義務教育段階である幼稚園から高等学校までのK-12段階でSTEM教育を実施した結果、科学の楽しさに対して肯定的な意見を持つ生徒が大幅に増加したという成果が得られています。
次の図1は、OECD(経済協力開発機構)が実施した国際学力調査PISA2006とPISA2015の変化指数の各国比較で、科学を学ぶことを楽しんでいると回答した生徒が、他国と比較しても顕著に増加しています。*4
さらに同調査では、30歳の時点で科学関連の職業に就くことを期待していると回答した生徒も増加しています。
STEM教育が育むのはAI社会で生き抜く力
アメリカから広まったSTEM教育は、2010年代以降、EUや中国、シンガポール、香港、韓国など世界各国で導入が進んでいます。急速にSTEM教育が浸透していったのには、AIやICTなどの科学技術の急速な発展に対応できる人材を育成するという各国共通の課題があったことが考えられます。
2013年にアメリカで発表された研究によれば、将来的にアメリカの雇用の約47%が、AIや機械によって代替できる可能性が高いと指摘されています。さらに、この研究を日本にあてはめた場合、就労人口の約49%がAIによって代替可能であるという結果になりました。*5
次の図2は、内閣府が2018年に日本企業を対象として実施した、「AI・IoT の導入が進展した場合増える(減る)見込みの仕事」に対するアンケート調査の結果です。*6
このアンケートでは、AI・IoTの導入によってもっとも増える見込みのある仕事は「技術系専門職」、反対にもっとも減る見込みのある仕事は「一般事務・受付・秘書」という結果になっています。
減る見込みのある仕事として「製造・生産工程・管理」も上位に入っており、たとえ熟練した製造現場の技術職であっても、AIによって仕事が奪われる可能性が高いと考えられているようです。
迫り来るAI社会で生き抜く力を養うために必要なのが、AIに置き換えられない創造性や感性を育むSTEM教育です。
日本でSTEM教育が必要である理由
日本では以前から理系離れが問題となっており、1990年代から複数実施された国内調査によれば、初等教育の段階では理科に好意的な生徒は多いものの、中等教育終了の時点で理系離れが進むという結果になっています。*7
IEA(国際教育到達度評価学会)による国際数学・理科教育動向調査(TIMSS 2019)においても、「理科の勉強が楽しい」と回答する生徒は小学校の時点では国際平均を上回っているにも関わらず、中学校の時点では平均を下回っています。
また、算数・数学に関しては、小学校・中学校どちらも国際平均以下で、中学校から内容がさらに専門的になることで差が広がることがわかります(図3)。*8
理系離れによって、自然界や地球環境への興味・関心が薄れること、そして理系選択者が減少することは、持続可能な社会の形成において深刻な問題です。
さらに、日本では理工系分野における男女格差が顕著に存在しています。国際的に見ても、日本の高等教育機関における理工系分野の女性割合は低く、OECD加盟国のなかで最下位になっています。*9
そして、理工系分野における男女格差は、AIの台頭によって女性が仕事を失うリスクを高める原因にもなり得ます。IMF(国際通貨基金)から発表された論文によれば、デジタル化の進展によって仕事を失うリスクは男性より女性の方が高く、さらに日本の女性は最もリスクが高いという結果になっています(図4)。*6
日本の女性が諸外国と比較してリスクが高いのは、理工系分野における男女格差によって、女性の職業がAIに代替されやすい職種に偏っていることが原因です。
教育現場で導入されているSTEAM教育とEdTech
文部科学省と経済産業省では、STEMにARTをプラスした、STEAM教育を推進しています。
ARTには、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲が定義されています。2022年度の入学生から実施されている高等学校の新学習指導要領では、STEAM教育と親和性の高い「理数探究」と「総合的な探究の時間」が新しく設置されました。
理数探究の対象は自然科学だけでなく、社会科学や人文科学、芸術なども対象としており、主体的に課題を設定して、科学的・数学的な手法を用いて課題研究をおこないます。
STEAM教育の推進と並行して進められているのが、EdTech(エドテック)の活用です。
EdTechとは、Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせた造語で、AI型教材やオンライン会話、VRなどの教育を支援するさまざまなテクノロジーのことです。EdTechの活用によって基礎知識のインプットを効率化し、生み出された授業時間をSTEAM教育に再編することができます。
EdTechとSTEAM教育を組み合わせた事例として、AI型教材Qubena(キュビナ)をご紹介します。
このAI型教材は全国1,800校以上で導入され、50万人以上が利用しています。個人の進度によって学習を個別化するQubenaによって、授業カリキュラムを最適化することで、ドローンやロボット、3Dプリンターなどの数学を実践的に活用したSTEAM教育を取り入れています(図5)。*10
STEAM教育によって、「なぜ数学を学ぶことが必要なのか」という数学と社会とのつながりを認識でき、基礎学習にもポジティブに取り組めるようになったという成果が得られています。*10
まとめ
デジタル化が進んだ未来の社会、Society 5.0(超スマート社会)の到来に向けて、学校教育や人材育成におけるSTEM教育の重要性が高まっています。日本におけるSTEM教育の推進には、根強い理系離れを解消し、さらに理工系分野における男女格差を是正する狙いがあります。
STEM教育は、理工系分野の研究者・技術者の増加に寄与するだけではありません。科学を身近に感じ、主体的で創造的な学びを実践していくことで、社会的課題への関心・理解、そして実際に行動する力や姿勢を育みます。
生活者・消費者である市民一人一人の科学リテラシーや論理的思考力の向上は、SDGsの目標達成や持続可能な社会の実現に貢献するでしょう。
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参考サイト:
- *1 21世紀の教育・学習|経済産業省(PDF)p.6(PDF)
- *2 資質・能力の育成を目指す教科横断的な学習としてのSTEM/STEAM教育と国際的な動向|経済産業省(PDF)p.8
- *3 経済産業省 「未来の教室」と EdTech 研究会 第1次提言|経済産業省(PDF)p.13
- *4 アメリカにおける STEM 教育 -次世代を担う STEM 人材の育成-|サンフランシスコ研究連絡センター(PDF)p.7
- *5 人工知能(AI)の進化が雇用等に与える影響|情報通信白書平成28年度版|総務省(PDF)p.247
- *6 AIが日本の雇用に与える影響の将来予測と政策提言|独立行政法人 経済産業研究所(PDF)p.17,p.24
- *7 理科離れの動向に関する一考察 ―実態および原因に焦点を当てて―|科学教育研究(PDF)p.115-116
- *8 国際数学・理科教育動向調査(TIMSS 2019)のポイント|国立教育政策研究所(PDF)p.1
- *9 Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ(案)|内閣府(PDF)p.5
- *10 株式会社COMPASS AI教材「Qubena」の学校教育への導入実証|「未来の教室」実証事業|経済産業省(PDF)p.2-4, p.6(PDF)