毎日の移動でCO2を削減!|明日からスマートムーブを始めてみよう
ライフスタイルに起因するCO2を減らすためには、省エネや環境負荷の低い製品の選択など、これまでの生活を見直さなければなりません。家庭で排出されるCO2は、照明・家電に次いで自動車が2番目に多く、毎日の移動手段を工夫することは、気候変動対策に大きく貢献します。
移動に伴うCO2排出を減らすために、マイカーではなく公共交通機関や徒歩、自転車を積極的に選択するスマートムーブという取り組みが推進されています。
スマートムーブの推進のために、日々の移動で公共交通機関を利用しやすいコンパクトな街づくりも進められています。パリやロンドンなどでは、コミュニティサイクルが本格的に導入されており、マイカーを所有しなくても暮らしやすい街を目指しています。
「移動」という観点から生活を少し変えてみることで、私たちはCO2削減にどのくらい貢献できるのでしょうか。
※この記事は、寄稿記事です。
目次
移動によって排出されるCO2を意識しよう
家庭から多くのCO2が排出されている
私たちの毎日の生活の中では、電気や水道、プラスチック製品の使用などのさまざまな形で気候変動の原因となるCO2を排出しています。
次の図1は1990年から2020年までの部門別のCO2排出量の推移です。産業部門や運輸部門は排出削減が進んでいますが、家庭部門は2007年から2009年の間と2013年以降は減少しているものの、1990年と比較するとやや増加しています。*1
そして各世帯から排出されるCO2において、照明・家電製品の使用の次に多いのが自動車に起因するもので、全体の約4分の1以上を占めています(図2)。*2
そのため、マイカーをはじめとした移動手段のCO2排出に着目し、ライフスタイルを変えていくことは、気候変動対策において大きな意味があります。
マイカーを電車に変えるだけでCO2排出は約7分の1に
通勤や通学など日々の生活に伴う移動の選択肢は、住んでいる地域やライフスタイルによって異なります。
それでは、マイカーやバス、鉄道、飛行機など、移動手段によってCO2排出量はどのくらい違うのでしょうか。次の図3は、輸送量あたりのCO2排出量を移動手段別に比較したものです。*3
図3のデータによれば、マイカーからバスや電車などの公共交通機関に変えるだけで、移動によって排出するCO2を半分以下に減らすことができます。特に電車はCO2排出量がマイカーの約7分の1以下と環境負荷が小さく、積極的に利用することでCO2削減に大きく貢献します。
移動をエコに|スマートムーブとは?
スマートムーブの5つの取り組み
環境省では、一人ひとりがライフスタイルを転換し、カーボンニュートラルを実現する”COOL CHOICE”という取り組みをおこなっています。
スマートムーブは”COOL CHOICE”の取り組みの一つで、「移動をエコに」を合言葉として、新たなライフスタイルを提案しています。
スマートムーブでは、主に以下の5つの取り組みを推進しています。*4
- 公共交通機関の利用
- 自転車、徒歩での移動
- 自動車の利用を工夫
- 長距離移動の工夫
- 移動・交通におけるCO2削減の取り組みに参加
スマートムーブとは、住んでいる地域、移動する距離、ライフステージ、利用可能な公共交通機関などから、最適な交通手段を賢く選択し、ベストミックスを模索することで、CO2削減に貢献する取り組みです。
公共交通機関が発達していない地域では、CO2排出の少ないエコカーへの乗り換えやエコドライブを推奨しています。エコドライブとは、加速やブレーキをゆっくりと行う、車間距離を十分に保つ、無駄なアイドリングをなくすなどを実践し、燃費を向上させる運転のことです。
自治体や企業がおこなっているCO2削減の取り組みには、自動車を近隣の方とシェアするカーシェアリングや街中で自由に自転車を乗り降りできるコミュニティサイクルなどがあります。*5
スマートムーブの効果は環境負荷低減だけじゃない?
スマートムーブを実施するメリットは、移動に伴うCO2排出量を減らすだけではありません。まず、自動車での移動を自転車や徒歩、公共交通機関に変えることで、運動量が増加し、健康維持につながります。
国立国際医療研究センターが約3万人の労働者を対象に、5年間にわたって実施した追跡調査によると、通勤を徒歩や自転車、電車、バスにすることは、体重増加の抑制につながることが明らかになっています(図4)。*6
BMIとは肥満度を表す体格指数のことで、マイカー通勤を継続、あるいはマイカー通勤を始めた人は、BMIが増加していることがわかります。
このように、通勤の手段を変えるだけで、生活習慣病を引き起こす肥満や運動不足を解消することができます。
さらに、スマートムーブは移動をより便利に快適にするというメリットもあります。公共交通機関を利用すれば、渋滞に巻き込まれる、駐車場が見つからないといった心配もなく、到着時刻が分かりやすいため、効率的に移動できます。自分で運転するよりも事故のリスクも少なく、お酒を飲んでいても、運転に自信がなくても、誰でも利用できるのが公共交通機関の強みでしょう。
スマートムーブ促進につながる取り組み
富山市のコンパクトシティ構想
日本では、人口減少や高齢化に対応するために、コンパクトシティ構想が全国各地で進められています。コンパクトシティとは、公共交通機関を軸とした街づくりのことで、地域サービスや職場までの移動がしやすい近接した開発形態のことです。*7
道路整備が進み、広く平坦な土地である富山市では、県庁所在地としては全国で最も人口密度が低く、自動車への依存度が高いことが課題となっていました。*8
バスや鉄道などの公共交通機関が利用されないことで、交通インフラの衰退が進み、将来的に都市機能を維持していくことが困難になることが危惧されています。
このような背景もあり、2005年からはじまった富山市のコンパクトな街づくりでは、LRTネットワークを形成し、歩いて暮らせる街の実現を目指しています(図5)。*9
LRT(Light Rail Transit)とは、低床式車両を用いた路面電車の進化型で、環境負荷が小さく、バリアフリーであることから、人と環境にやさしい公共交通機関として再評価されています。LRTネットワークが富山市内に整備されることで、公共交通機関の高齢者の利用者が増加し、ライフスタイルの変化がみられています。*9
富山市では、公共交通機関の活性化と都市部への住み替えを含む市民のライフスタイルの転換によって、2050年までにCO2を2005年度比で80%削減することを目標としています。*10
海外で導入が進むコミュニティサイクル
コミュニティサイクルとは、相互利用可能な複数のサイクルポートの設置によって、街中で自転車が自由に乗り降りできる都市交通システムのことです。街の中に設置されたサイクルポートであれば、どこでも貸出し・返却が可能で、短時間・短距離の移動に最適です。
バスの停留所や地下鉄の駅前などに設置することで、電車やバスなどの公共交通機関を補完するという位置付けもあり、環境負荷低減や渋滞緩和に貢献します。*11
ロンドンやパリ、バルセロナ、ニューヨーク、台北などの海外の都市では、大規模で高密度なコミュニティサイクルの導入が進んでいます。コミュニティサイクルの導入が進んでいる海外の都市では、サイクルポートを大規模に導入し、設置密度を高めることで、利用者を増やすことに成功しています。
さらに、駅での誘導サインの表示や周辺案内図への記載、走行レーンの整備をすることで、公共交通機関として明確な位置付けをおこなっています(図6)。*12
まとめ
スマートムーブの取り組みは、環境への負担を減らし、効率的な移動や健康維持にも寄与します。
ウォーキングやサイクリングは、自動車の移動では気が付かなかった新たな街の魅力や季節のうつろいを発見でき、心のリフレッシュにもなるでしょう。
一方で、公共交通機関の利用促進においては、バリアフリーなどのハード面の整備以外にも、乳幼児連れの移動におけるベビーカーの利用のしにくさや、乗客マナーの問題などさまざまな課題も残っています。
スマートムーブを進めていくには、「公共交通機関ではさまざまな利用者への配慮が必要である」という理解を深めることも重要でしょう。気温の上昇や豪雨災害など、世界各地で発生している気候変動は、私たちの日々の行動や選択の積み重ねが原因の一つとなっています。
気候変動の進行を食い止めるために、明日からスマートムーブにチャレンジしてみませんか。
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参考サイト:
- *1 4-05 日本の部門別二酸化炭素排出量の推移(1990-2020年度)|全国地球温暖化防止活動推進センター
- *2 【SDGsライフのヒント】スマートムーブ|環境省
- *3 移動の仕方で賢い選択|環境省
- *4 毎日の「移動」を「エコ」に! smart move(スマートムーブ)に取り組んでみませんか?|政府広報オンライン
- *5 smart moveとは|環境省
- *6 徒歩や自転車、公共交通機関による通勤が体重増加を抑制する|国立研究開発法人 国立国際医療研究センター
- *7 国土交通白書 2014 第1節 賢く使う|国土交通省
- *8 富山市 環境モデル都市行動計画 -コンパクトシティ戦略によるCO2削減計画-|環境省(PDF)p.2
- *9 富山市型LRTによる低炭素交通まちづくり|富山市 都市整備部 都市政策課(PDF)p.4, p.9
- *10 環境モデル都市とやまの取組み|富山市長 森 雅志(PDF)p.2
- *11 コミュニティサイクルの普及について|国土交通省(PDF)p.1, p.5
- *12 海外等にみる コミュニティサイクルの導入事例について|国土交通省(PDF)p.7, p.13