琵琶湖4杯分の「バーチャルウォーター」を輸入する日本|本当に水は豊か?

朝、一杯のコーヒーを飲み、トーストをかじる。わたしたちにとっては、そう珍しくない光景です。
しかし当たり前のようなこの光景は、国外からの輸入なくして成り立たないものとも言えます。そして、それはただ単にコーヒーや小麦粉の輸入が多いというだけの理由ではありません。
わたしたちの「珍しくない食卓」は、外国の水資源に依存しているのです。
※この記事は、寄稿記事です。
目次
相次ぐ食品値上げと日本の食糧自給率
近年、日本国内では食品の値段がじりじりと上がっています。内容量を減らして価格を維持する「ステルス値上げ」も多くなっています。
そして、帝国データバンクが食品の主要会社105社を対象にした調査によると、2022年の食品値上げは2万品目に迫る見通しだということです*1。
「円安」だけではない日本の食糧事情
同時に話題になっているのが「円安」です。しかし、円安だけが食品の値上がりの理由ではありません。
そもそも日本の食糧自給率が低く食品の多くを輸入に頼っているということも、食品値上げの大きな理由です。
2021(令和3)年度の日本の食料自給率は、カロリーベースで38%です。長らく下降傾向にあります(図1)。
海外からの輸入食品なくしては、日本人の生活は成り立たないと言えます。
エネルギーも海外頼み
また、輸入食品か国内で生産された食品かにかかわらず、食品を生産し輸送するにはガソリンなどのエネルギーが必要です。しかし、エネルギー自給率も日本はとても低い水準にあります(図2)。
食料自給率の低さとエネルギー自給率の低さが、食品価格の不安定さの根本にあります。円安は、食品会社の工夫の限界を超える決定打にすぎないとも言えます。
日本人の食生活は「もうひとつの犠牲」の上に成り立っている
これまで食品会社は、利益を圧迫されながらもなんとか大幅な値上げを避けるという「犠牲」を払ってきたともいえます。
しかし、日本人の食生活は、別の意味でも外国に「犠牲」を強いています。それは「水問題」です。
日本人は、外国で大量の水を使用している
近年、牛肉の消費と環境問題との関係が指摘されているのはご存じの方も多いと思います。問題の根本のひとつは「水の消費」にあります。
牛は餌としてトウモロコシなどを食べますが、トウモロコシを1kg生産するには、灌漑用水として1,800リットルの水を必要とします。そして、こうした穀物を餌として牛肉を生産すると、牛肉を1kg生産するのにはその約2万倍もの水が必要になるという事実があります*2。
工業製品もまた、水なくしては作れません。よって、日本は食糧に限らず、外国から大量の水資源を同時に輸入していると見ることもできるのです。
この概念は「バーチャルウォーター」と呼ばれています。そして2005年の段階で日本は約800億㎥のバーチャルウォーターを世界中から輸入しています(図3)。
これは日本国内で使われる生活用水、工業用水、農業用水を合わせた年間の総取水量と同程度に匹敵しています*3。
つまり日本人の生活を国内だけで維持しようとした場合、日本国内で使っている水の2倍の水資源を必要とするということです。
コーヒーを1杯飲むと、外国の水をどのくらい使う?
さて、あなたは今日何杯のコーヒーを飲んだでしょうか。朝食やランチには何を食べるでしょうか、あるいは食べたでしょうか。
例えば、1杯のコーヒーに使うコーヒー豆10グラムを生産するのに必要な水は210リットルです*4。
ひとりの日本人が365日、毎日輸入品のコーヒーを1杯飲んだとしましょう。すると、その人は単純計算で、年間に7万6,650リットルの外国の水を飲んでいることになります。
そして環境省によると、他の食品、特に原材料に輸入品が多いもので使われているバーチャルウォーターの量はこのようになっています*5。
- ハンバーガー1個=水999リットル(パン+牛肉)
- 牛丼1杯に使われる牛肉(70グラム)=水1442リットル
- スパゲティ100グラム=水200リットル
- うどん200グラム=水120リットル
では、朝に駅でうどんを1杯食べ、昼に牛丼を1杯食べて食後にコーヒーを1杯飲み、夕食にスパゲティ100グラムを食べたとしましょう。
小麦や牛肉が外国産の場合、その人は1日で2,971リットルの外国の水を飲んでいる計算です。一般家庭のバスタブで使う水の量が200リットル程度ですから、その人は毎日バスタブ約15杯の水を輸入し、消費し続けていることになります。
では、その日に1億人が同じメニューを食べたとしましょう。すると、消費されるバーチャルウォーターは1日で2,971億リットル=2.97億㎥となります。これが100日間続けば、琵琶湖1杯分を超える量の海外の水を消費したことになるのです(琵琶湖の貯水量は約275億㎥*6)。1年に換算すると、琵琶湖4杯分となるでしょう。
もちろん、実際の1日の食事はこのようにシンプルではありません。メニューには調味料、油、外国産の野菜だけでなく国産の米や卵なども使われています。
人は1日のうちに非常に多くの水を食べ物という形で消費しているのです。水資源の重要性がわかります。
日本に水問題はない?
これだけのバーチャルウォーターを海外から輸入しているにもかかわらず、日本もまた水不足の問題を抱えています。
日常生活の中ではあまり実感がないかもしれませんが、農業用水・工業用水の地下からの過剰な汲み上げによって、じつは日本国内では多くの場所で地盤沈下が進んでいます(図4)。
災害大国と言われる日本では、地盤沈下は大きな問題です。大雨での冠水地点の増加、津波被害の増大につながります。
それだけでなく、地下水も降水量が追いつかない量を汲み上げ続けると、いずれ日本の農工業も水不足に陥る時がやってくることになります。
真の「フェアトレード」とは
コーヒーやカカオなどは、生産者の低賃金についても問題視されており、「フェアトレード」という概念も浸透しつつあります。
しかし近年、様々な食材が日本ではなく、支払い能力の高い中国などに流れています。食料品の生産に限らず、どんな企業でも経営者であれば高く購入してくれるところに商品を提供するのは当然のことです。
しかし日本が立たされている立場は他国よりも深刻です。冒頭にご紹介したように食料自給率が低く、輸出先として他国を優先されれば日本国内で物価が跳ね上がるだけでなく、最悪の場合は入手すらできなくなってしまうからです。
しかも水資源という、お金では買えないものも消費しているとなれば、真っ当な対価を提供しなければ日本は「取引をしたくない国」だといつ思われてもおかしくありません。
また、国内での食料生産の活性化も大きな課題でしょう。「食べる」という生活の基本がいかに海外に支えられているかを改めて考え、このままでは現状は長くは続かないという危機感が必要です。
今回の記事で紹介したバーチャルウォーターや日本のエネルギー自給率は、以下の目標6番と7番の解説記事でも紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
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参考サイト: