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佐賀市のCCU事業は気候変動を抑制するモデルとなり得るのか?

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近年、台風や大雨など自然災害が激甚化・頻発化しています。毎年のように大規模な水害が発生しており、メディアを通じて報道される深刻な被害状況を目にして驚いた方も多いでしょう。

海外でも、台風・サイクロン・豪雨による洪水被害や、干ばつ・森林火災などの被害が発生しています。

激甚化・頻発化する災害の原因は、気候変動すなわち地球温暖化が原因と言われています。そして、地球温暖化の原因が温室効果ガスであることは、今や多くの人が知るところとなりました。代表的な温室効果ガスがCO2(二酸化炭素)であることも、すでに多くの人に認知されています。

日本政府も2020年10月の臨時国会で「2050年カーボンニュートラル宣言」を行っており、企業のみならず、自治体も脱炭素の活動を始めています。

脱炭素に取り組む自治体の中でも珍しい取り組みを行っているのが、九州・佐賀県にある佐賀市です。今回はCO2の地産地消に取り組む佐賀市のCO2分離回収・活用事業を紹介します。

※この記事は、寄稿記事です。

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世界中で加速する脱炭素化

近年、自然災害の激甚化・頻発化が指摘されています。例えば日本では、過去5年間で台風や豪雨に起因する激甚災害が毎年発生しています。*1

また、世界でも異常気象や災害が頻発しており、直近では20227月にヨーロッパ西部を中心に高温が続き、同年719日には40.3℃というイギリス史上最も高い気温が観測されました。*2

他にも、世界各国で大雨や洪水・サイクロン・干ばつなどが発生しています(図1)。

これら異常気象や気象災害の原因は、地球温暖化に起因する気候変動だと考えられています。*3

地球温暖化、気候変動を防ぐために、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標SDGs」には、「目標13 気候変動に具体的な対策を」(気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる)という目標が盛り込まれました。*4

さらに、同年12月、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組み「パリ協定」も採択されています。*5

温室効果ガスにはメタン、一酸化二窒素などのガスがありますが、最も排出量が多いガスがCO2であることも多くの人がご存知でしょう。*6

現在、世界中でCO2の排出量削減がトレンドになっています。メディアで脱炭素やカーボンニュートラルなどの言葉が頻繁に取り上げられるようになり、その注目度の高さを肌で感じている人も多いのではないでしょうか。

日本政府も2020年10月の臨時国会で「2050年カーボンニュートラル宣言」を行い、地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けて動き始めています。*7

また、日本では2022年10月31日時点で43の都道府県が「2050年カーボンゼロシティ」を宣言し、2050年までに CO2排出を実質ゼロにすることを目指しています。*8

都道府県だけではなく市区町村単位でもカーボンゼロシティの取り組みが行われており、その中でも世界で初めての取り組みを行っているのが九州・佐賀県の県庁所在地である佐賀市です。

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佐賀市が取り組むCO2の分離回収・活用事業「CCU」とは?

佐賀市が取り組んでいるのが「CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization):CO2の分離回収・活用」事業です。佐賀市では、市が運営する清掃工場(ごみ焼却施設)でごみを焼却した際に発生する排ガスからCO2のみを高純度で分離回収する設備を設置しています(図2)。

このCO2のCCU設備は2016年8月に稼働を開始し、2022年時点で6年目を迎えます。*9

清掃工場の排ガスからCO2を回収し有効利用する事業は、2016年時点で世界で初めての取り組みでした。*10

CO2は主に炭素を含む物質が燃焼したときに発生します。もちろんごみを燃やしたときにも発生し、一般的には排ガスとして大気中に放出されています。つまり、不要なごみから出たCO2もまた不要な気体だったわけです。しかし、佐賀市では、このごみから出たCO2を資源として活用すべく、以下のような取り組みを行っています。

藻類培養

清掃工場で回収されたCO2は、パイプラインを使い隣接する藻類培養施設へ供給され、藻類の育成促進に役立っています。*11

藻類培養施設ではヘマトコッカスという藻類が培養されていますが、このように大規模な培養が行われているのは、日本国内では佐賀市だけです(図3)。

佐賀市の藻類培養施設へのCO2供給の事例は、2019年に開催されたCOP25(第25回国連気候変動枠組条約締結国会議)でも紹介されました。*12

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キュウリ栽培

藻類培養施設と同様、キュウリの栽培施設が清掃工場近くに建設され、パイプラインにより清掃工場からCO2が供給されています(図4)。

キュウリ栽培においては、清掃工場から出る排熱蒸気も有効活用しており、全国のキュウリ平均収量の約4倍の収量を達成しました。これは、10アールあたりの収量において国内最高記録の収量です。*13,*14

バジル栽培

藻類、キュウリに加え、バジルの栽培施設も建設されており、ここにも清掃工場から回収されたCO2が供給されています(図5)。

また、バジル栽培においても、キュウリ栽培と同様に排熱も活用されています。*15

さらに、地元の高校生と共同でバジルを使った調味料が開発され、近隣の商業施設で販売されています。*16

CO2の有効活用のみならず、地域活性化にも貢献しているのです。

大豆栽培

2022年には藻類、キュウリ、バジルに加えて、新しく大豆の育成研究プロジェクトがスタートしました。*17

この取組では、地元の佐賀大学が大豆の育成方法を研究、伊藤忠エネクス株式会社がエネルギー供給、不二製油グループ本社株式会社が大豆製品の開発を担当します。そして、佐賀市が大豆栽培時のCO2供給を行い、将来的に清掃工場周辺で大豆栽培が行われる計画です(図6)。

回収されたCO2の売上

ここまでで紹介した藻類培養施設、バジル栽培施設は民間企業が運営しており、キュウリ栽培施設は全国農業協同組合連合会が運営しています。*13,*15,*18

これらの企業・団体へ供給されるCO2は有償です。*19

佐賀市のCO2分離回収の設備は約14億5千万円の費用を投じて建設されました。一方で、2016年の稼働から3年間のCO2の売上は約500万円と、当初市が計画していた販売金額を下回り、残念ながら商業的な面では採算が取れていません。*19

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気候変動を抑制するモデルとなる可能性を秘めたCCU事業

商業的に見れば、佐賀市の取り組みは採算が取れていない状況です。しかし、2022年には大豆育成研究のプロジェクトが発足、藻類培養施設の拡張も予定されており今後の売上増加が期待できます。*17,*20

また、市としても気体の状態のCO2だけでなく、液体や個体(ドライアイス)、 超臨界CO2(液体と気体の両⽅の特徴を持つ流体)の状態での販売も検討しており、さらなる販路拡大を計画中です。これまでの活用事例は農業分野でしたが、今後は人工炭酸泉の導入・普及も検討されており、福祉の面でCO2の活用が広がるかもしれません。*21

現時点では採算は取れていないかもしれませんが、世界で脱炭素社会の実現を目指している現代において、佐賀市の取り組みは非常に重要な役割を担っているのではないでしょうか。

それを裏付けるように、佐賀市が世界で初めて取り組んだ清掃工場の排ガスからCO2を回収し有効利用する事業は、徐々に広がりを見せています。

2021年にはJFEエンジニアリング株式会社が、佐賀市と同じく清掃工場の排ガスからCO2を回収・利用する実証実験を開始しました。*22

三菱重工グループも、2022年に同様の実証試験を開始しています。*23

佐賀市のCCU設備を視察したオーストラリアに本部を置く世界規模のNPO団体・グローバルCCSインスティテュ―ト(The Global Carbon Capture and Storage Institute)は、この取組を以下のように評価しています。*24

「佐賀市の焼却施設は世界に伝わっていないが、世界最高の地球環境ストーリーの一つであり、他の都市が佐賀市モデルを倣えば、気候変動はすぐに過去のものとなるだろう」

佐賀市が世界で初めて取り組んだこの事業は、気候変動抑制の立役者になるかもしれません。


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