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環境対策の取り組みは現実を知ることから|IPCCの評価報告書とは

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「環境問題」とひとくちに言っても、そこには様々なものが含まれています。地球温暖化によるものだけでも天候の変化、生態系への影響、海面上昇などの問題があります。

また人間の活動に伴い大気や土壌、海水などに有害物質の放出がなされているといった問題も起きています。人間活動が地球環境に及ぼす影響は多岐に渡り、それらが複雑に絡み合って様々な問題を引き起こしているのです。

これらを俯瞰的に計測・評価し、先行きについて分析しているのがIPCC(気候変動に関する政府間パネル)で、定期的に報告書を発行しています。この報告書を確認すると、地球環境の変化や先行きについて、具体的に把握しやすくなります。

※この記事は、寄稿記事です。

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IPCCの「評価報告書」とは

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織です。その目的は気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることで、20218月現在、195の国と地域が参加しています*1

そして、 世界中の科学者の協力のもと、文献(科学誌に掲載された論文等)に基づいて定期的に報告書を作成し、気候変動に関する最新の科学的知見の評価を提供しています。

地球環境や気候と人間活動の間には密接な関係があります。また、長期的に見れば地球自体の変化も存在します。IPCCはこれらを総合した「気候システム」として、下のような要素について科学的根拠や先行きを分析しています(図1)。

また、報告書では「工業化以前」という言葉が使われています。IPCCは「工業化以前」を「1750年頃からの大規模な工業活動が始まる前の数世紀間」と定義しつつ、世界全体をカバーする観測データのある18501900年の平均値を工業化以前の世界平均気温」として用いています*2

また、各種の変化を「確信度の高さ」で表現しています(図2)。

では、これらの前提をふまえ、近年注目された報告書をいくつかご紹介します。

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IPCC「1.5度特別報告書」の衝撃

2015年に批准され、2016年に発効した「パリ協定」は、以下の2つの世界共通の長期目標を掲げています*3。

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
  • そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

引用:今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~|資源エネルギー庁

しかし、IPCCが2018年10月に作成・公表した「1.5℃特別報告書」は、パリ協定が達成されたとしても環境破壊は免れられないことを指摘しています。その内容は以下のようなものです。

まず、この報告書では、「地球温暖化を1.5℃に抑制することは不可能ではない。しかし、社会のあらゆる側面において前例のない移行が必要である。」と前置きされています*4。

ただし、1.5℃に抑制したとしても、地球環境に大きな影響を与えることは避けられない見通しを示しているのです。例えば、海洋生態系への影響です(図3)。

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上の図によれば、気温上昇を1.5℃にとどめたとしても、サンゴ礁はさらに70〜90%が消滅するという厳しい見通しが「高い確信度」で予測されています。また、漁獲量も世界で年間約150万トン損失するという予測です。2℃の上昇よりは影響は抑えられるとはいえ、大きなダメージを与えることには変わりないのです。

また、気候・気温への変化については以下のような予測が示されています(図4、5)。

そのうえで、「一部の人間及び自然システムにとっては、1.5℃の地球温暖化において適応及び適応能力の限界があり、損失が伴う(確信度が中程度)」とも指摘しています*5。

では、今後世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑制できる可能性はどのくらいあるのでしょうか。IPCCはこれに対しても、厳しい見通しを示しています。

IPCCは、温室効果ガス排出量がこのまま維持された場合で、2040年には、1.5℃の温暖化が進むと推計しています。また、2100年までに、1950年と比べた気温上昇を1.5℃に抑えるためには、2020年から2040年または2055年までにCO2排出量が実質ゼロになる必要があるとの試算を公表しています*6。

これらの事実を見ると、パリ協定の目標はどのくらい現実味がある話なのか疑問を抱く人もいることでしょう。

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すでに観測された気候変動の影響は人間にも

さて次に、2022年2月に公表された「第2作業部会 第6次評価報告書」の内容をご紹介します。本記事公開時点のIPCCの報告書としては最新のものです。

ここでは、気候変動がすでに人間に与えている影響を報告しています(図6)。

多くの地域で、農業、漁業、洪水などといった影響だけでなく、メンタルヘルスへの影響も現れていると指摘しているのです。

そして、以下のような指摘をしています。一部をご紹介するとこのようなものです*7。

  • 地球温暖化は、短期のうちに1.5℃に達しつつあり、複数の気候ハザードの不可避な増加を引き起こし、生態系及び人間に対して複数のリスクをもたらす(確信度が非常に高い)。
  • 2040年より先、地球温暖化の水準に依存して、気候変動は自然と人間のシステムに対して数多くのリスクをもたらす (確信度が高い)。127の主要なリスクが特定されており、それらについて評価された中期的及び長期的な影響は、現在観測されている影響の数倍までの大きさになる(確信度が非常に高い)。

引用:AR6 WG2 政策決定者向け要約|環境省(PDF)p.5

現状についてはこのように綴られています*8, *9。

  • 一部の生態系はハードな(適応の)限界に達している(確信度が高い)。
  • 気候変動が既に人間と自然のシステムを破壊していることは疑う余地がない。過去及び現在の開発動向(過去の排出、開発及び気候変動)は、世界的な気候にレジリエントな開発を進めてこなかった(確信度が非常に高い)。
  • 第5次評価報告書(AR5)以降、多くの部門及び地域にわたり、適応の失敗の証拠が増えている。気候変動に対する適応の失敗につながる対応は、変更が困難かつ高コストで、既存の不平等を増幅させるような、脆弱性、曝露及びリスクの固定化(ロックイン)を生じさせうる。適応の失敗は、多くの部門及びシステムに対して便益を伴う適応策を、柔軟に、部門横断的に、包摂的に、長期的に計画及び実施することによって回避できる。(確信度が高い)。

引用:AR6 WG2 政策決定者向け要約|環境省(PDF)p.8, p.11

そして、次のような見通しを示しています*8, *9。

  • 地球温暖化の進行に伴い、損失と損害が増加し、更に多くの人間と自然のシステムが適応の限界に達するだろう(確信度が高い)。
  • 次の10年間における社会の選択及び実施される行動によって、中期的及び長期的な経路によって実現される気候にレジリエントな開発が、どの程度強まるかあるいは弱まるかが決まる(確信度が高い)。重要なのは、現在の温室効果ガス排出量が急速に減少しなければ、特に短期のうちに地球温暖化が1.5℃を超えた場合には、気候にレジリエントな開発の見込みがますます限定的となることである(確信度が高い)。

引用:AR6 WG2 政策決定者向け要約|環境省(PDF)p.8, p.11

次の10年間、本気で対策を取らなければ危ういということです。

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崩壊まで秒読みという危機感の共有を

ここまでご紹介してきたように、IPCCは科学的なデータを用いて、衝撃ともいえる様々な警告を発しています。その内容は一般的な認識よりもかなり厳しいものです。現在、多くの機関や企業などが「2030年までに」「2050年までに」などの目標を掲げて活動しています。

しかし、それすら手遅れになる可能性があるということを知り、地球環境の変化による人間活動の崩壊は秒読みであるという認識を多くの人が持つことが重要です。


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