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自然との共生を目指す狩猟の役割とは

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「野生鳥獣や鳥が増えている」と聞くと、多くの人が「自然が豊かになった」「環境破壊が少なくなった」「動物が増えることはいいことだ」というイメージを持つのではないでしょうか。

もちろん、悪化していた自然環境が回復し、本来の生態系が戻ることで野生鳥獣が増えることもありますが、逆に野生鳥獣が増えすぎて森林や田畑の環境に影響を与えることがあります。それが鳥獣被害です。

日本国内の鳥獣によってもたらされる被害金額は約161億円、被害面積は約43ha(東京ドーム約9,196個分)にものぼります。野生鳥獣の生息数と環境保全にはバランスが重要ですが、このバランスを取る役割を果たしているのが、狩猟という行為です。

今回は、自然との共生における狩猟の役割と新しい狩猟の可能性を紹介します。

※この記事は、寄稿記事です。

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鳥獣被害の実際

鳥獣被害を発生させる代表的な動物は、シカ、イノシシ、サル、ハクビシン、アライグマ、カラスなど多岐にわたります。*1

上記の動物以外にも、毎年のようにメディアを賑わせているのがクマです。2021年度には北海道におけるヒグマによる死傷者が過去最多の14人にのぼりました。*2

農作物の被害額という面から見ると、シカやイノシシによる被害が約6割を占めています。特にシカは、繁殖力が強く1987年から2014年までの36年間で分布地域が約2.5倍になり、農作物被害の原因の第1位にもなっています。

さらに、分布地域の拡大に伴い、野生鳥獣による森林被害面積の約7割をシカが占めるほどです。*3,*4

被害が深刻になると、希少植物の減少や土壌流出を引き起こします(図1)。

自然との共生 画像1

農作物の被害金額は2013年ごろから横ばいではあるものの、その額は2020年度で約161億円です。農作物を鳥獣に食べられる以外にも、農作物を踏み潰される・掘り起こされるといった被害もあり、ほとんどの農作物で被害が発生しています(図2)。*3

自然との共生 画像3

自然との共生 画像4

画像参照:図2 踏みつけられた大豆(左)ブロッコリーの食害(右)|いま各地でおきている鳥獣被害を考える|農林水産省

このような鳥獣による農作物の被害は、金銭的な側面以外にも生産者に精神的なダメージを与えています。鳥獣被害によって営農意欲が減退し、耕作放棄や離農のきっかけになることも問題視されています。*5

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鳥獣被害が増える理由

野生鳥獣は本来臆病で人間に出会うことを嫌っています。ではなぜ彼らは人里に降りてくるようになったのでしょうか。その原因はいくつかあります。*6

  1. 餌場の存在
  2. 柵の設置不良
  3. 里山里地の減少
  4. 追い払いの失敗
  5. 野生鳥獣の増加

それぞれの原因をもう少し詳しく見ていきましょう。

1. 餌場の存在

農作物を収穫したあとの取り残しや管理者のいない果樹などは、人間にとって価値がなくても野生鳥獣にとっては価値がある餌となります。*6

その他にも、コンビニやゴミ集積場などは野生鳥獣にとって絶好の餌場となり、簡単に美味しいものが食べられると学習した動物たちが市街地にも現れることが多くなりました(図3)。*7

2. 柵の設置不良

鳥獣被害を防止する対策としてよく用いられるのが、田畑全体を覆う柵です。しかし、柵の設置方法が適切でない、設置後の管理が十分でない場合には、野生鳥獣が侵入し被害が発生してしまいます。*6

3. 里山里地の減少

里山里地とは環境省では「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」と定義しています。

これらの場所は古くから農業や林業を通して人の手が入った自然環境が出来上がった場所で、様々な生物の生活の場所になっていました。しかし、近年では過疎化や高齢化などで農林業に携わる人間が減り、里山里地は放置され荒廃が進んでいます。*8

管理された里山里地は明るく見通しが良い場所です。野生鳥獣はこのような場所を嫌がるため、人間と野生鳥獣の生息域を分けるバッファーゾーンとして機能していました。しかし、里山里地がなくなり、動物が身を隠すことができる荒れた土地が増えたことで野生鳥獣が人里へ降りてくるようになったのです。*6

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4. 追い払いの失敗

野生鳥獣の中でもサルに限定されますが、効果のある追い払いができていないという点も挙げられます。

サルの存在を見てみぬふりをする、特定の人しか追い払いをしないといった場合、サルが「人間は怖い存在ではない」と認識し、人馴れしてしまう場合もあります。*6

5. 野生鳥獣の増加

鳥獣被害をもたらす野生鳥獣の中で、個体数が増えている動物がシカとイノシシです。*6

特にシカの個体数増加は顕著で、2014年をピークに減少傾向は見られるものの、1989年と比較すると約8.7倍もの個体数になっています(図4)。

日本のシカは江戸時代から明治にかけて駆除や乱獲により個体数が減少しましたが、個体数を増やすためにシカの捕獲禁止措置が取られたため、1990年代から生息数が急増しました。*9

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狩猟の役割

前述の通り、野生鳥獣の中でもシカの個体数増加は顕著で、希少植物の減少や土砂流出などを引き起こしており、食害の影響は国立公園でも発生しています。*10

鳥獣被害を防ぐ対策としてよく用いられるのが柵ですが、国立公園や森林全体などの面積の広い場所に柵を設置するというのは現実的ではありません。そこで登場するのが「個体数管理」という方法であり、野生鳥獣の個体数管理を行う上で重要な役割を果たすのが「狩猟」です。

その他、特に個体数が増えているシカとイノシシは、2013年に2023年までに生息頭数を半減させる目標が掲げられました。この目標を達成させるために、都道府県によって「指定管理鳥獣捕獲等事業実施計画」が策定され、シカとイノシシの捕獲が進められています。*11

ここまでで紹介したように、特定の鳥獣が増え過ぎると環境にも影響を与え、様々な動植物の生活環境が脅かされてしまいます。狩猟には野生鳥獣の個体数を調整する役割と、個体数を調整することで環境を保全するという役割があるのです。

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狩猟の新しい可能性

狩猟の歴史を遡れば、狩猟とは生きるために野生鳥獣を捕獲して食料とし、彼らの骨や革を用いて衣服にすることが目的でした。近代になるにつれ、狩猟を趣味として楽しむ文化も現れました。*12

現代日本では鳥獣被害の対策として多くの狩猟が行われていますが、捕獲された動物の肉の多くは、埋設又は焼却処分されているという問題があります。*13

近年、この問題を解決するサービスや、捕獲した野生鳥獣をジビエとして販売する企業も現れています。2022年には飲食店がハンターにジビエをオンライン注文できるサービスが誕生しました。このサービスは「Fant」というアプリを使って、飲食店が希望するジビエの情報を登録し、その情報を踏まえてハンターが狩猟を行うというものです(図5)。*14

ジビエを食肉として市場に流通させるためには、地方自治体が条例で定める食肉処理業の施設基準を満たす必要があり、処理ができる場所は限られています。*15

ハンター個人がこの設備を準備することは難しく、野生鳥獣を捕獲しても余った肉は破棄するしかありませんでした。しかし、このサービスが普及すれば、ジビエの流通量は更に増えることが期待できます。

他にも、県と民間企業が協力して狩猟の事業化を目指す動きも見られます。ALSOK福岡(福岡市)では、2020年度から農地の見守りサービスとしてイノシシやシカの捕獲を開始しました。この取組ではALSOK福岡が福岡県と組み、捕獲した動物を食肉として加工し、あわせて農作物の被害を少なくすることを目指しています。*16

狩猟免許所持者の減少と高齢化が進む一方で、ジビエとして利用される鳥獣頭数やジビエ利用量は増加傾向を示しています(図6)。*17

2022年9月にはファーストフード大手のロッテリアが鹿肉を活用したハンバーガーを数量限定で全国発売しました。*18

現在は数量限定の販売ですが、今回紹介したようなハンターと飲食店のマッチングや企業による狩猟の取り組みが活性化すれば、いつでもジビエが手軽に食べられるようになるかもしれません。

これからの狩猟は陸の豊かさを守るだけではなく、新しいビジネスを生み出す可能性も秘めているのです。

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