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環境にやさしい行動をそっと後押し|SDGs達成のためのナッジ理論

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SDGsにはさまざまなゴールが設定されていますが、「目標12 つくる責任 つかう責任」や 「目標13 気候変動に具体的な対策を」の達成には、食品ロスの削減や省エネなど、私たち消費者の日々の行動が大きく関係しています。

しかし、大量生産・大量消費・大量廃棄が当たり前になった現代において、便利で快適な毎日を手放すことは容易なことではありません。

そこで、近年注目されているのが、そっと背中を押すことで無理なく人々の行動変容を促す、ナッジ理論です。

ナッジ理論では、罰則や報酬によって人を動かすのではなく、行動経済学の知見に基づいて、社会や環境により良い行動を無理なく自然に選択できるように促します。

この記事では、SDGsとナッジ理論の組み合わせに注目して、SDGs目標達成に向けたナッジ理論活用の事例を紹介します。

※この記事は、寄稿記事です。

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ナッジ理論とは

ナッジ理論とは、米国の経済学者であるリチャード・セイラー教授が提唱した考え方です。2017年にセイラー教授がナッジ理論によってノーベル経済学賞を受賞したことをきっかけに、社会での認知度も高まり、さまざまな取り組みに活用されています。

ナッジ(nudge)には、「そっと後押しする」「肘で突く」といった意味があり、行動経済学の知見を活かして、無理なく自分自身や地球環境にとってより良い選択を促します。経済的なインセンティブを与えることも、選択を禁止することもせず、選択の自由を残すことがナッジ理論の特徴です。

ナッジ理論では、「人は不合理で直感的な思考をもとに行動している」ことを前提としています。人の思考は、直感的と論理的の2パターンに分類されますが、約95%の行動は直感的な思考によるものです。(図1)。*1

例えば、やらなければならないとわかっていても、提出物や仕事が締め切りギリギリになってしまうのは、直感的に行動してしまっているのが原因です。楽で疲れない行動を直感的に選択してしまう大多数の人を、より良い方向に導くためには、ナッジ理論に基づいた手法が効果的です。

周囲に合わせてしまう同調性や、利益よりも損失を避けようとする損失回避性などの人間の意思決定のクセを利用して、自然に合理的な判断ができるように導きます。

国内でも、さまざまなシーンでナッジ理論の活用が広まっています。ナッジ理論の活用例として、同調性が意思決定に影響することに着目した高知県高知市での取り組みを紹介します。

高知県高知市では、健康診断の受診率改善を目指して、ナッジ理論にもとづいた勧奨メッセージを発信しています。やるべきだとわかっていても、つい後回しになってしまう健康診断に対して、「多くの人が健康診断を受けている」ことを明示することで、行動を促す取り組みです(図2)。*1

この勧奨メッセージでは、具体的な地名や数字を示すことで、社会に同化したいという意識に働きかけ、健康診断の受診を促しています。イラストでも健康診断に行く人をポジティブに描き、健康診断に行かない人に対してはネガティブな印象を受けるように作成されています。

ナッジ理論を活用することで、ポイントの付与などのわかりやすい報酬を設定せずに、行動変容を促すことができます。

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食品ロスを減らすためのナッジ理論の活用例

食品ロスの現状

SDGsのゴールの一つである「目標12 つくる責任 つかう責任」では、具体的なターゲットとして「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる」ことを設定しています。*2

世界では食糧不足によって命を脅かされる人がいる一方で、日本を含む先進国では多くの食品が廃棄されています。

日本の年間の食品ロスは約522万トンで、これは世界で飢餓に苦しむ人のための食糧支援量の約1.2倍に相当します。*3

食品ロスは家庭系と事業系の二つに分けられ、家庭から排出されるものの他に、外食での食べ残しやスーパーマーケットなどの小売店で廃棄される食品も含まれます(図3)。*4

さらに、食品ロスは気候変動とも深い結びつきがあります。

捨てられた食品は生ゴミとなり、焼却処理される際に多くのCO2を排出します。無駄な食品を製造・加工・輸送することは、本来削減できるCO2を排出しているということにもなります。

食品ロスを減らすためには、食べ残しや買い物のしすぎなど、食品ロスの原因となる人々の行動を変化させていかなければなりません。

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横浜市で実施された食品ロス削減のための実証事業

横浜市では、飲食店での食品ロスを減らすために、ナッジ手法を取り入れた実証事業を実施しています。この実証事業では、飲食店の食べ残しに対してさまざまなナッジ手法を提案し、削減効果を比較することで、より最適な手法を提案することを目的としています。

実証事業の対象となった飲食店では、メニューの中でライスの食べ残しが多いことに注目し、複数のナッジ手法によって削減効果を測定しました。

削減効果が確認されたナッジ手法の一つが、ライス量の選択必須化とメニュー表示の工夫です。女性や子どもの食べ残しが多かったことから、小盛りサイズも選択可能としたうえで、量の目安を分かりやすく提示しています(図4)。*5

ナッジ手法を取り入れることで、全体の残さ(残渣)率とライスの残さ(残渣)率のどちらも、現況調査時と比較して減少したことが確認されました(図5)。*5

この試みでは、ライスの量を選択制にし、さらに見える化することで、自分の食べ切れる量を無理なく選択できるように後押しすることに成功しています。

効果が確認されたナッジ手法を他の飲食店でも水平展開していくことで、より大きな規模での食品ロスを削減することが期待されます。

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省エネ行動推進のためのナッジ理論の活用例

家庭での省エネ推進はなぜ必要なのか

SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」では、気候変動への影響を減らすために、世界が一丸となって今すぐ行動に移すことをゴールとしています。*6

気候変動の緩和策の一つである省エネ対策は、私たちが生活の中で省エネを実行することが、大きな貢献となります。家庭でのエネルギー消費は増加傾向にあり、第一次石油ショックがあった1973年度から2018年度までに、約1.9倍も増加しています(図6)。*7

生活の利便性や快適性を追求した結果、家庭でのエネルギー消費は増加傾向にあり、CO2排出量削減のためには、より一層の省エネが必要です。

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家電の買い替えを促すナッジ手法の事例

家庭でできる省エネ行動には、エアコンの設定温度の調整や使っていない家電のスイッチオフなどがありますが、省エネ家電への買い替えも効果的です。

技術開発によって家電の省エネ性能は向上しており、買い換えることで大幅な節電が可能です(図7)。*8

金額面での負担がハードルとなりやすい省エネ家電への買い替えを促すために、環境省ではナッジ理論を活用した実証実験を実施しています。

蛍光灯からLEDに買い替えを促すことを目的に、6,000人の消費者に対して異なるメッセージを見せて架空の商品カタログから選んでもらうという実験です。

ナッジ手法のなかの「社会規範」「デフォルトの変更」を用いてメッセージを作成し、被験者の反応を見ることで、消費者の行動変容が可能かどうかを検証しました。ナッジ理論における社会規範とは、人間は意思決定の際に周りの意見や行動に影響されるという特性です。

図8のメッセージでは、多くの家庭でLED照明を使用していることを社会規範として強調することで買い替えを誘導しています。*9

デフォルトの変更とは、選択肢をそもそも根底から変えることで、選ばせたい方へ誘導する手法です。

図9のメッセージではLEDか蛍光灯かではなく、デフォルトとしてLEDを選ぶように示すことで、選択を誘導しています。*9

複数のメッセージの中でもナッジ手法を用いたメッセージを見た被験者の多くがLED商品を選択し、特にデフォルトの変更をしたメッセージが効果が高いことが確認されました。

この検証結果は小売店などに共有され、省エネ家電買い替え促進のために今後も生かされる予定です。

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まとめ

食品ロスの削減や省エネ行動促進のために、国内ではナッジ理論を取り入れたさまざまな検証が実施されており、その効果も確認されています。

地球環境について問題意識を持つことも行動の変化につながりますが、個人の意識にのみ頼る方法では限界があります。社会や環境のために必要であると理解はしていても、食品ロス削減や省エネに取り組むことで、不便な生活になってしまうという意識があれば、続けていくことは困難です。

負担や我慢を強いることなく、そっと最適な選択肢を後押しするナッジ理論を用いることで、環境にやさしい行動を習慣化することにつながります。ライフスタイルを地球や社会にとってより良いものに変えるためには、ナッジ理論の活用が一つの解決策になるかもしれません。


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