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モーリシャス座礁事故の影響をSDGsから解説|注目される理由は?

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2020年8月上旬にインド洋の島国モーリシャスの沖合で、日本の企業が関係する貨物船が座礁事故を起こしたニュースが報じされました。座礁に伴い積載していた重油が流出したことが問題視されており、各種ニュースで目にした方も多いでしょう。

SDGsに関する情報を提供・解説するSDGs media では、この記事でモーリシャス座礁事故をSDGsから読み解いていきます。

今回の記事はこんな人にオススメです
  • モーリシャス座礁事故について詳しく知りたい
  • SDGsとモーリシャス座礁事故の関係を知りたい
  • モーリシャス座礁事故で流出した重油を取り除く取り組みに興味がある

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モーリシャス座礁事故の概要

2020年7月25日、インド洋の島国モーリシャス沖で株式会社商船三井(以降、商船三井)が運航する貨物船「WAKASHIO(わかしお)」が中国からシンガポール経由でブラジルに向かう途中で座礁しました。

2020年86日、貨物船の重油タンクが破損したことで、積載していたおよそ4,000トンの重油のうち、約1,000トンが海に流出しました。翌87日にモーリシャスのジャグナット首相は「環境非常事態」を宣言し、モーリシャスには「座礁した船を引き揚げる技術や専門知識がない」と支援の必要性を訴えました。

1,000トンの燃料が海へ流出した上、820日時点では、船体の後ろ部分がいまだサンゴ礁に乗り上げたままの状態です。

事故の原因

モーリシャス島の周りには数千メートルにも達する深い海があり、よほど島に近づかない限り、貨物船が座礁することはありません。

しかし、わかしおは通常より15キロ以上も陸に近い航路を使用しており、貨物船が座礁したポイントはなんと陸から1.8キロ地点でした。地元警察の調べによると「Wi-Fiに接続するために島の近くを航行した」と乗組員が話したと報じられていますが、正確な原因については2020年8月25日時点で明らかになっていません。

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これまでに起きた油の流出事故

今回のような油流出事故は、これまでにもさまざまな場所で起きています。

事故名称場所流出した規模
1997年ナホトカ号事故日本海6,240トン
2006年ブライトアルテミス海難事故東インド洋4,500トン
2010年メキシコ湾原油流出事故メキシコ沖440万バレル
2020年ノリリスク燃料流出事故ロシア北部2万1,000トン
2020年モーリシャス座礁事故モーリシャス沖1,000トン

モーリシャス座礁事故の3ヶ月前にも、ロシア北部のノリリスク地方で火力発電所の燃料タンクから軽油が流出する事故が発生しました。また、2006年のブライトアルテミス海難事故では、今回と同じく商船三井が保有する原油タンカーがスリランカとスマトラ島間で海難事故に遭い、積荷の原油が流出しました。

このようにさまざまな場所で重油流出事故が発生していますが、重油の流出規模に注目してください。実は、モーリシャス座礁事故の規模は1,000トンと、他の事故と比較しても小規模であることが分かります。

モーリシャス座礁事故が特に注目を集めている理由は、事故の場所

では、なぜモーリシャス座礁事故が世界的に深刻な問題と注目されているのでしょう?それは事故が起こった「場所」が大きく影響します。

わかしおが座礁した付近には、ラムサール条約の指定地域が2箇所あります。ラムサール条約とは、水鳥を食物連鎖の頂点とする湿地の生態系を守る目的で、1971年に制定された湿地の保存に関する国際条約です。

つまり、モーリシャスには多様な生物が生息した保存地域があり、今回の事故が生息する動物たちに多大な影響を与えてしまうことが、国際社会から注目を集めている要因の1つなのです。

さらに、心配されるのが海の熱帯雨林と呼ばれるサンゴ礁への影響です。流出した重油を回収するために油処理剤を使用すると、サンゴ礁を傷つけてしまう恐れがあります。そのため、サンゴ礁を守りながら重油を取り除くには、人の手で回収作業をしないといけません。

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SDGsの目標からモーリシャス座礁事故が与える影響を考える

次に、モーリシャス座礁事故が与えた影響をSDGsの17目標で整理してみましょう。

目標14「海の豊かさを守ろう」への影響

SDGs目標14

今回の事故により、モーリシャスが誇る海洋環境に多大な悪影響を及ぼすと言われています。座礁した付近は、世界的に有名なサンゴ礁や1,700種の海洋生物が生息し、生物多様性のホットスポットです。重油流出により海洋生態系のすべてに影響が及ぶと予測されています。

目標15「陸の豊かさも守ろう」への影響

SDGs目標15

流出した重油はマングローブ林で覆われる湿地帯にまで侵入しています。マングローブは、淡水と海水が交わる「汽水域(きすいいき)」にのみ生育し、そこではさまざまな生物が生息しています。マングローブにまで重油が流れたことで、多くの生態系にも危害を加えます。

目標8「働きがいも経済成長も」への影響

SDGs目標8

モーリシャス のGDP(国内総生産)は、25%が観光業、10%が漁業で占めています。つまり、海洋産業を中心としています。しかし、重油流出事故により、観光や漁業の仕事がなくなり、収益源を失う人々が増える恐れがあります。

目標2「飢餓をゼロに」と目標3「すべての人に健康と福祉を」への影響

目標2と3

経済不況が原因になり、飢餓や健康にまで影響を及ぼす危険性があります。国際環境団体グリーンピース・アフリカの代表者は、「モーリシャスの経済、食糧安全保障、健康が危機的状況に陥ってしまう」とも述べています。

ある目標が他の目標に影響を与えている

昨今の新型コロナウイルスの影響で国境を閉鎖しているため、支援の受け入れも困難な状況が続き、スムーズな対処を行えていない現状があります。

このように重油流出事故が起点となって、環境から経済、経済から社会へとさまざまな社会課題を連鎖的に及ぼしていることが見えてきます。

モーリシャスのSDGs達成状況

SDSNが毎年、世界のSDGs達成度ランキングを発表しています。2020年度のランキングでは、モーリシャスは166カ国中108位でした。下記がモーリシャスの17 目標別の達成度および進捗度になります。

目標につけられている4色はそれぞれ達成度を表し、緑は目標達成、黄は課題が残っている、オレンジは重要な課題が残っている、赤は主要な課題が残っているを意味します。

4色の矢印と灰色の丸は目標別の進捗(変化・動向)を表し、緑は達成に向けて順調、黄は達成に必要なペースの50%を超えている、オレンジは達成に必要なペースの50%を下回っている、赤はスコアが減少している、灰色の丸はデータなしを意味します。

17目標のうち、すでに達成していると評価された目標は目標1「貧困をなくそう」のみと、SDGsの達成状況は全体的に遅れています。ですが、進捗度については多くの目標において前年より改善傾向が見られます。

しかし、こちらの調査は20206月に発表されており、重油流出事故が発生する以前の結果となります。今回の重油流出事故をきっかけに、モーリシャスのSDGs進捗状況に負の影響を及ぼすことが想定されます。

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モーリシャス座礁事故の責任は誰が負うのか?

今回のモーリシャス座礁事故において、商船三井の会社名がよく登場します。しかし、座礁した「わかしお」は商船三井の所有物ではなく、岡山県の長鋪(ながしき)汽船株式会社(以降、長鋪汽船)の子会社からチャーターしていました。そして、貨物船の乗組員はインド人の船長をはじめとした20名です。

ニュースの報道を見ていると、「商船三井」の名前が踊っているため、商船三井に責任があるように見ることができます。しかし、燃料油流出による汚染損害は、2008年に発効されたバンカー条約が適用され、損害賠償責任は船主の長鋪汽船の子会社が負うことになり、商船三井には法律上の責任は求められません。

しかし、今回の事故をきっかけに、商船三井のサプライチェーンへの管理不足が露呈しました。仮に、商船三井が「危険な運航をする企業とは取引をしない」とステークホルダーへの監視を強化していたら、今回の事故は発生しなかったかもしれません。

そういった意味では、会社規模が大きく影響力の強い商船三井の企業姿勢が今後問われていきます。

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注目される流出燃料を除去する取り組み

重油が流出して以来、懸命な除去作業が行われています。その中で注目されている除去の取り組みをご紹介します。

髪の毛から作る「オイルフェンス」

安く、持続可能性があり、手に入りやすい素材「人の髪の毛」を使用し重油流出防止への活動が行われています。髪の毛は水をはじき油だけを吸う性質を持っているため、海での重油の除去や流出防止に向いています。加えて、ポリプロピレンなどから作られる吸油素材に比べ、生分解性があるため、環境に悪影響を与えないサスティナブルな解決法として用いられています。

髪の毛を使用した重油流出防止作業の歴史は1989年まで遡り、アラスカでの燃料流出を受けヘアサロンのオーナーが髪の毛の性質に目を向けたことがきっかけとされています。それ以来、2010年のメキシコ湾原油流出事故でも髪の毛が活用されました。偶然にも今回の座礁発生の1週間前に、シドニー工科大学の研究で髪の毛が海での原油流出の処理にとても効果的だと発表したばかりでした。

現在、髪の毛やワラなどの材料をナイロンストッキングやネットに詰めて海の油を回収しています。島内のヘアサロンは50%の割引を実施するなど、モーリシャスの島民、支援団体、ボランティアなどが総出で環境を守ろうとしています。

エム・テックス社の油吸着剤シート「マジックファイバー」

東京に本社を構える化学製品メーカーのエム・テックスは、モーリシャスで起きた重油流出事故を受け、水をはじき油だけを吸うという特殊な「マジックファイバー」という繊維の油吸着剤シートを寄付しました。エム・テックス社は20198月に佐賀県で起きた工場の油流出事故でも同シートを寄付し、事故後の復旧に大きく貢献しています。

現在、JICAを通して、一枚最大1リットルの油が吸収できる30cm四方のシートを約1,200枚提供しています。シートは外務省、環境省、JICAで組織される国際緊急支援隊の第2陣とともに819日モーリシャスへ運ばれました。

また、追加でシートを送ることを実現させるために830日までクラウドファンディングでの支援も呼びかけています。

該当Webページは以下からアクセスしてください。

災害時の油流出事故から環境を守る寄付プロジェクト|マクアケ - クラウドファンディング

ドローンフォトグラファーが状況をリアルタイムに撮影

モーリシャスは海軍を所持していないため、航空映像を撮影しているのは警察や沿岸警備隊の大型航空機です。しかし、これらは主に座礁した船の監視を実施しており、リアルタイムの映像を発信することが難しい状況にありました。

そんな中、沖に広がった燃料流出の範囲を把握するのに、結婚式で活躍するドローン撮影者が欠かせない存在になっています。

壮大な自然に囲まれるモーリシャスは、結婚式を挙げる場所として人気です。そのため、航空撮影ができるドローン操縦者が増えていました。地域の地理的知識や風の動きを熟知した操縦士は、地上・海の中で作業をする人たちと連携を取っています。波の向きによってどんどん広がっていく重油を、いかに早く回収するかが鍵となってくるため、上空からの映像が作業の効率化に重要な役割を果たしています。

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まとめ

モーリシャス座礁事故の全容は、記事公開時点では明らかになっていませんが、流出した重油がモーリシャスに暮らす人々と自然環境に大きな影響を与えていることは明確です。SDGsの目標で影響を見ていくと、1つの悪影響が他の目標(領域)にも悪影響を与えていることがイメージしやすいでしょう。

最後に、モーリシャスへの寄付やボランティア参加を募っている団体「Save Mauritius Reef」をご紹介します。日本語のページではありませんが、気になる方はぜひご覧ください。

詳しくはこちら:http://savemauritiusreef.org/

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